この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』や『論語』、渋沢栄一など中国古典や歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。
前回は、海外展開に活路を見出した国とそうでない国についての歴史的事例を踏まえて、その背景について議論しました。今回は、企業にとってなぜ海外展開が難しいのか、そしてその壁を突破した海外企業たちと、その力の根源を紹介します。
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ORIENT:原義は「口ーマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、 トルコなど中近東、東ヨーロッバ、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」 「重視する」 「新しい状況に合わせる」の意味に。

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グローバル化が難しいのは世界が凹凸でギザギザだから
(み):もう一つ、国家レベルの動機があろうとなかろうと、なぜグローバル化が難しいかといったら、日本にとってだけではなく、世界中の国にとっても、世界が凹凸であり続けたからです。グローバル化はglobeから来ています。globeは地球です。だからグローバル化とは「地球は1つだ。1つのルールで行ける!」という意味でもあります。
それを強く主張したのがトーマス・フリードマン。2005年に『The World Is Flat(フラット化する世界)』で、「世界は随分フラットになってきている。グローバル化しているのだ」と説きました。彼はもともとジャーナリストなので、キャッチフレーズを作るのがとても上手です。「黄金のM字アーチ理論」――マクドナルドが進出している国同士は文化が一緒だから紛争が起きない、とか、「デルの紛争回避理論」――コンピュータのデルが発展していくと、売れる場所がどこであっても、デルを作るサプライチェーンは世界中に広がっているから、簡単には互いに戦争を仕掛けることができなくなる。そうすると自国の産業もダメになってしまうから、などと名付けて大いに受けました。米国だけで300万部の大ベストセラーです。
ところが実はその前年、インディアナ大学のアラン・ラグマンが、「世界はグローバル化などしていない」と唱えていました。彼がやった分析は単純です。フォーチュングローバル500(世界で最も売り上げを上げている500社)企業の地域別売上高を調べて(*1)、世界3地域(北米市場、欧州市場、アジア・パシフィック市場)から均等(*2)に売り上げを上げている企業を「真のグローバル企業」としました。そしたらなんとそれが9社しか存在しなかったのです。世界的な大企業ですら、ほとんどが母国市場やその近隣市場に強く依存していたのです。

「真のグローバル企業」9社のうち、欧州企業が3社(オランダのフィリップス、フィンランドのノキア、フランスのLVMH(*3)、アジア企業が3社(シンガポールのフレックス(*4)、ソニー、キヤノン)でした。米国の企業は3社しかありませんでした。
企業にとっても世界中に広がっていくことはすごく難しい。それは世界が凹凸だから、なのです。
*2:各々の市場での売上が、全体の20%以上であること。
*3:日本語表記ではモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン。
*4:当時はフレクストロニクス。EMS(Electronics Manufacturing Service)業界の世界第2位。
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