イノベーション経営とは、猛獣を飼い猛獣使いを育てること

(み):小さな起業家は、環境次第でたくさん生み出せますが、小さな起業家たちとともに米国を引っ張っていくのは、結局大きなプレイヤーです。そのリーダーたちは本当に変な人たちばかり。Appleのスティーブ・ジョブズはもちろんですが、テスラとスペースXのイーロン・マスクも、Amazonのジェフ・ベゾスもそう。本人が普通でないからイノベイティブ、はわかるけど、なぜ彼らは大企業をイノベイティブに保てるのか。それがとてもフシギです。

(守):今の話を伺って思いだしたのが、キヤノン電子の酒巻久さんのお話です。「選択と集中というけれども、選択と集中では、それをやれる人材が全く違う。選択というのは完全にセンスが必要である」と仰ってました。これはイノベーションを起こせる人材とも共通すると思うのです。集中のほうは、もう決まったものをひたすらやり続けるので、ある種の業務遂行能力があれば大丈夫。では選択は難しい。じゃあどんな人間に選択センスがあるのかというと、それは「生意気なやつ」なのだそうです。

(み):「生意気なやつ」の頂点がきっとスティーブ・ジョブズですね(笑)。彼はAppleを創業し、成長させ、追い出され、後に復帰したわけですが、そのとき大胆な選択を行っています。やたらに増えた商品ラインの9割以上を叩き切り(*6) 、全社の総力を挙げてiMacを開発・投入しました。その独創的機能やデザインは大ヒットし「トランスルーセント(半透明)・スタイル」の祖と呼ばれました。

Apple iMac(1998)(写真:iCreate Magazine / Getty Images)
Apple iMac(1998)(写真:iCreate Magazine / Getty Images)

 ジョブズは選択のことを「kill the good ideas」と呼びました。「どれだけ良いアイデア(good ideas)を殺せるか(kill)が勝負だ」と。画期的な商品やサービスを開発・導入するには、非常に大きな労力と資金、そして経営者(ジョブズ自身)の時間・関心を必要とします。「good idea」レベルの案件すべてにそれを投ずることはできない。すればすべてが失敗する。どれだけ提案者が不満でも、excellentなアイデアしか認めない。それがジョブズ流の「選択」でした。

(守):ジョブズは選択の達人だったんですね。酒巻さん曰く、「生意気なやつの10人に9人はダメなやつ。残りの1人を見出すのが経営者の役割である」と。ジョブズ亡き後もAppleが好調を維持しているのは、きっと彼がその役割をちゃんと果たしたということなのでしょう。

 まあ多くの日本企業は、そもそも生意気なやつが「嫌い」で採用自体をしないので、それ以前なのですが……。

(み):昔は大企業だからこそ「変な人間」を抱えていられたと思うのです。今こそ本当にそれが必要かもしれません。

(守):酒巻さん自身も、若いころから相当「生意気なやつ」だったようです。元猛獣だったからこそ猛獣使いになれたという訳です。ということは、猛獣を飼っておけないと猛獣使いも生まれないのですから、日本の大企業が本当にイノベイティブになりたいなら、この循環をもっと積極的に回さないといけないということですね。

(み):人材の多様性を維持し促進することも、きっとシュンペーターのいう「企業家の役割」のひとつなのでしょう。

*6 それ以前に、自分を招聘した当時のCEOや役員陣をAppleから放逐した。

日本企業に求められる覚悟

(み):日本企業がイノベーションにおいて成果を上げられないのは、その必要性と残酷さを経営者自身が理解していなかったからだと感じます。イノベーションに遅れれば「担当者の変更」にあう、つまり倒産して皆が路頭に迷うのです。イノベーションは夢に満ち、でも失敗と不快なことだらけで、そしてとても残酷なものなのです。それに立ち向かう覚悟がなければ、その前提である「人材の多様性」すら実現できません。生意気なやつを採用し、猛獣使いがそれを活かすこと。大変と文句を言うマネジャーがいたら(多分大部分が本心はそう)、それを説得し倒すことが経営者の役割です。

 人材で言えばイノベーションへの「金融機能」を担う者たちも必要です。ただこれは育てるものではなく、邪魔しないこと。

 そして最後が場所の問題。イノベーションは辺境から生まれます。便利で快適なところから画期的アイデアもその実現へのモチベーションも生まれません。さあ、本社移転や縮小を考えている経営者のみなさん、次の一手はどこに打ちますか。淡路ですか、それとも北海道?

 今回は「イノベーション」をテーマに語り合ってきました。次回は「教育」。組織における人材育成がテーマです。

(守):「一つの正解がない」教育の極致「薩摩藩の郷中」の価値が見直されています。

■変更履歴
掲載当初、キヤノン電子の酒巻久氏の発言が「生意気なやつの10人に9人はクズである」となっていましたが、「生意気なやつの10人に9人はダメなやつ」に訂正します。本文は修正済みです。 [2020/10/26 21:00]

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