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 この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』をはじめとした中国古典や渋沢栄一など歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。

 前回の第3回「イノベーション」前編では、明治維新やiPodなどのイノベーションの背景と論理を取り上げました。後編はイノベーションが生まれる土壌について考察していきます。

ORIENT(オリエント):原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど近東、東ヨーロッパ、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に。

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【第4回】「イノベーション」後編

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新しい流通はいつも北関東で生まれる

(み):私は、昔から「イノベーションは辺境で生まれる」と言っています。辺境というと怒られてしまいますが、例えば、新しいホームセンター(*1)も家電量販店も大都会である東京で生まれたことはないのです。

(守):確かにそうですね。

(み):ホームセンター を超えるスーパーホームセンターは、ジョイフル本田が1976年に茨城県土浦市(人口14万人)で立ち上げました。群馬県高崎市(同37万人)のカインズらがそれに続いています。1993年には福井県坂井市坂井町(同1.3万人)でスーパーセンターPLANTが生まれ、ベイシア(高崎市)らがそれに続きます。ベイシアは「職人の店」ワークマン(群馬県伊勢崎市、同21万人)も生み出しています。

 家電量販店業界で過去ずっと日本一だったのは、FC制を取り入れた福岡を拠点に九州地方を席捲したベスト電器でした。2位はエディオン。ダイイチとして広島に生まれ、究極のサービス「Zサービス」を武器に中国地方を制覇しました。でも、圧倒的低価格と大型店舗を武器にあっという間にナンバー1になったのが、やはり群馬県高崎市で創業したヤマダ電機(*2)でした。覇を競ったコジマ(栃木県)もケーズデンキ(茨城県)も北関東です。新しい流通業の多くは、北関東で生まれるのです。

(守):何か理由があるのですか。

(み):まずはもともと不便だったことです。不便なところにしか強いニーズ(不満)はなく、イノベーションは生まれないのです。東京は、最も古い、非効率なものが生き残っているところです。昔ながらの商店街などがなぜまだ存在しているかというと、とにかくお客さんが多いからです。近くに1000万人が暮らしているなら、どんな商売もなんとかなります。でも地域的に離れ、近くに店が無く不便で、でもある程度の人口がいて、もっと便利にモノが買いたいというニーズがある場所だったからこそ、新しい流通形態が生まれたのです。

 もうひとつの理由が関東平野そのものです。単に不便なだけなら日本中にあるわけですが、北関東は2次元的に、平面的に広がっています。日本はほとんど1次元なのに。

(守):1次元?

(み):日本の都市は東海道沿いや山陽道沿い、いわば1~2本の線の上に存在します。つまり人口が1次元の線状に広がっているのです。店舗には商圏という言葉があります。お店の何㎞先から集客できるか、という考え方です。その店舗の魅力が大きければ、5km先からではなく、10km先からも来てくれます。その時にどれだけの人口が対象になるでしょうか。線状では倍にしかなりませんが、面状に人口が広がっていれば、半径rの2乗で円の面積は大きくなりますから、商圏人口は4倍になります。だから平面上に人口が広がっているのはお店にとってはとても重要なことなのです。

 一般に大規模店舗の価値は「ワンストップ」です。ここに来ればなんでも揃う、無駄足を踏む心配が無い、思いがけないものもある、のワンストップの価値があるから遠くからでもお客さんが来てくれます。それが集客力につながります。商圏が平面的なら、魅力の2乗でお客さんがたくさん来ることになります。だから関東という平面的にマーケットが広がっている場所は、ビジネス上、非常に価値があるのです。

(守):便利なところには顧客のニーズも起業のモチベーションもない。逆に不便で人口が希薄でも、2次元的な市場なら「こうすればサービスが成立する」という新しい答え=イノベーションが生まれるのですね。

(み):それで言えば、インターネット内の商圏は3次元以上です。距離は関係ないので、商品やサービスに魅力さえあれば、商圏人口は40億人(*3)なのです。

*1 ホームセンターは和製英語。DIY、家庭用品(家具、生活雑貨、電気ガス用品など)、自動車用品、衣料などを取り扱う。業界トップはDCM、2位はカインズ。
*2 1973年群馬県前橋市で創業。
*3 インターネットユーザーは人口の53%。77億人×53%=40億人。