忖度してたら失敗は乗り越えられない

(守):ゴビンダラジャン教授の「リバース・イノベーション」にしろ、それが広まっていくためには、前例踏襲や上下関係重視を破壊するための「親殺し」、もしくは「先輩殺し」が可能かどうかですよね。先回Amazonのリンデンの話でありましたが、彼の実地実験(A/Bテスト)が成功すれば、自分がお世話になった先輩や上司が左遷されたりクビになったりするかもしれない。でもその状況で、彼はやってしまえたわけです。

 日本だといくら自分に自信があっても、「お世話になった上司や先輩に迷惑かけられない」「後でいじめられそう」「成功しても失敗しても転職が難しくなる」で終わってしまいそうです。組織風土として、上司や先輩の立場や気持ちを忖度(そんたく)する部分を薄くしていかないと、失敗から学んだり、新しいものに変えたりできません。

(み):その通りでしょうね。ただその前提は、日本(の大企業など一部における)終身雇用制度にあります。アメリカだけではなく、ヨーロッパも含めて、少なくともエグゼクティブを目指して頑張ろうと思う人たちは、今の会社がすべてとは、まったく思っていません。たとえある会社で面白いことをやって失敗してクビになっても、それがキャリアになるのです。上司の言う通りやって何も成果が出ないのでは、何のキャリアにもなりません。

 でもそれが、もうこの会社からは出ない・出られないと思っていたら、それは上の人が大切に決まっています。しかも上の人も変わらないのですから。ずっとこの上下関係が保たれるのであれば、さすがに忖度しますよね。評価や出世のためには上司に気に入られることが一番なのですから。

(守):でももし、「上司に気に入られても成果や能力が上がらないなら評価が低い」ということになれば、部下の行動も変わりますよね。自律的にならざるを得ません。

(み):それが、成果主義や能力主義の、真の目的です。ただその成果や能力は誰が評価するのでしょう。それが上司だけだというなら、元の木阿弥です。ぐるぐる回って抜け出せません。ここにも上司以外の第3の目が必要です。

 例えば「360度評価」。

(出所:三谷作成)
(出所:三谷作成)

 ある評価対象者に対して、その上司からだけでなく、複数の部下や同僚、社外関係者らからの評価を集め、総合的に評価します。アメリカでは売上上位1000社中、9割の企業が既に導入し、日本でも帝人やヤマト運輸、アイリスオーヤマ、テルモ、ソフトバンク、DeNAやメルカリなど2割以上の企業が導入しています。手間は掛かりますが、これに自己評価を加えてそのギャップを見ることで、本人の内省にもつながります。

 また、社員の給与を市場価値で決めるという会社も存在します。ヘッドハンターが個々人の業績の分析や面談をして、「その対象者を他社がヘッドハントするといくら払うか」を査定するのです。当然、これから伸びる分野での専門性を持っている社員の評価は高くなり、昔からの社内人脈だけで勝負している管理職の評価は低くなります。これが正しいかどうかは別にして、ここに忖度は一切入り込みません。

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