まずは組織の共通目的(=経営戦略)を明確にする

(み):私が合理性という言葉に感じるのは、やはり合理主義の「理」。つまり理性や効率ですね。価値観や感情ではなく。

 連載の「組織統治」の回(第18、第19回)で、「組織は戦略に従う」という話がありましたが、戦略という軍事用語を初めてビジネスに導入した人物が、『経営者の役割』の著者、チェスター・バーナードです。社長として長く優良企業を率いた彼の考えや経営手法は、「バーナード革命」と呼ばれました。彼は過酷な外部環境を乗り切るために、組織がバラバラではなく「システム」として動かないと駄目だといいました。システムとして動くためには3つ必要だ。1つは「モチベーション」です。個々人のやる気がなければ、みな言われたことしかしなくなります。もう1つが「コミュニケーション」です。組織内・組織間できちんとコミュニケーションが取れないといけません。そして一番大切なのが「共通の目的」だと言っています。その共通の目的のことを、彼は「戦略」と呼びました。

 だから、企業戦略の最も基本的な定義は、組織を超えた構成員みんなに対して示す共通の目的であるといえるでしょう。戦略目的そのものが必要だということですよね。それが曖昧だったり、ただの数値目標である「売上100億円!」みたいな話になったりすると、組織がめちゃめちゃになってしまうのです。家族主義だから優しいわけではありません。でも家族扱いする中で、自然な上下関係ができ非合理的なことも許されてしまうのです。

(守):日本の場合、三谷さんが指摘された「共通の目的」と「家族主義」って、ちょっと悩ましい関係を持ってきました。先ほど述べた「温情主義」は明治の後期に登場しましたが、あるきっかけがあって強化、拡充されました。それが第2次世界大戦に向けての、戦時体制の構築なんです。

 内閣直属だった当時の企画院の文章に「企業を利潤追求を第一義とする資本の支配より離脱せしめ(*4)」とあるんですが、各企業は株主利益の追求を止めて、従業員の生活共同体となって一丸となって戦争に奉仕せよ、と求められました。この流れから、戦後の日本企業の三種の神器といわれる「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」も出てきます。

 そして、この形の「家族主義的経営」って、戦後のある時期まで確実に機能したんだと思います。なぜなら、日本全体で「戦争の勝利」なり「焦土となった日本を復興する」「欧米に追いつき追い越せ」といった大きな共通の目的が持てていたからです。もちろん問題も山ほどありましたが、そのなかで「家族主義的経営」はそれなりに成果を出していました。ところが日本がGDP世界第2位の経済大国となって、大きな目的が失われてしまった。

 こうなると、個々の企業レベルでの「共通の目的」が問われるようになるのですが、多くの企業は「社是」や「理念」をタテマエ化してしまい、改めて問われるとカラッポに近かった。国家レベルの大きな目的に安住してしまっていたとも言えるでしょう。すると「家族主義的経営」の悪い面がバンバン目につくようになった。こんな流れではないかと思います。

 特に「家族主義」に特有の上下関係や序列って、新しいものを造り出すのには弊害が出やすいのですが、伝統的な価値観の縛りが強くて、日本の組織はなかなか脱却しきれないですね・・・・・・

4 『現代日本経済システムの源流』岡崎哲二・奥野正寛編 日本経済新聞出版

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