会社は家族ではない

『小さなチーム、大きな仕事』ジェイソン・フリード他(早川書房)
『小さなチーム、大きな仕事』ジェイソン・フリード他(早川書房)

(三谷、以下み):組織や企業などは、「家族ではない」ことがすごく大切だと思っています。それを強烈に示したのは異色のIT企業37シグナルズ(*2)でした。その主力商品はプロジェクト管理ソフトBasecampで、世界330万社が導入しています。それをわずか60人弱で開発・販売・運用しているのだから驚きです。この会社、1999年の創業当時から、全員フルリモートワークで世界に分散、週休3日制、経費精算は社用クレジットカードで許可不要、など独特の会社運営で知られていました。働きやすさナンバーワンで、業績もいい会社です。その創業者ジェイソン・フリードが著書『小さなチーム、大きな仕事』(*3)で「会社は家族ではない」と書いていました。

 日本で働きやすさというと家族的経営と思われがちですが、この会社はまったくそうではなく、かつアメリカ的な契約型でもないのです。フリード曰く「人を子ども扱いすれば、子どものような仕事しかしない」「何にでも許可を必要とする環境は、何も自分で考えない文化をつくるから」と。会社から許可や管理を徹底的に排除することで、信頼と自立、責任が生まれるというのです。

 でも「社員は家族だ」といった途端に、会社は合理性を超えた存在になってしまいます。だから、ウソだと分かっていても社員(子ども)を信じてあげるとか、理由なく上司(親)の意志に従わせるとか、お金より絆とか……。

(守屋、以下守):会社と家族主義との関係を歴史的に見ますと、日本の会社は戦後長らく「家族主義的経営」だったと言われています。でも、意外なことに明治時代は真逆だったんです。1903(明治36)年に農商務省が出した『職工事情』という調査報告書には、誘拐同然に女子工員が集めてこられたり、一日15時間以上の労働させられたりと、ひどい実情がつづられています。今以上にブラック企業だらけで、転職率も高かったんです。さすがにこれはマズいと法整備が計画されたのですが、経営者側がこれに対抗して打ち出したのが「温情主義」なんです。つまり、労働者に対して優しい親のように愛情あふれた経営をするので、厳しい法で縛るのをやめて欲しいし、労働者にもっと定着して欲しい、と。

 今、三谷さんが「合理性」について言及されましたが、問題はその「理」、つまり価値観とは何かという点なんだと思います。この頃の資本主義では、理とは突きつめると金儲けしかなかった。そうすると、強い立場の経営者が弱い労働者を搾取したり、道具のように扱うことが下手をすると「合理的」、つまり理に合うことになってしまう。この対極の原理として登場したのが「温情主義」や「家族主義」になるんだと思います。渋沢栄一が「論語と算盤」を熱心に唱えざるを得なかった背景の一つも、ここにあったりします。この意味では、企業の定義を変えようとしたともいえるかもしれません。

2 2014年からBasecampに社名変更。
3 日本では2012年出版。原著は『Rework』2010年出版。

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