自らの失敗や成功は外部の視点で

(み):自分の成功や失敗は見えづらい、ことが問題です。日露戦争のように、一見失敗したとは見えない、そのときには成功したと思われていることでも、外から学んで自らを振り返ることをしないと、同じ組織で同じ行動を繰り返すことになってしまう。そしていつか環境が変わって頓死(とんし)してしまうわけです。

(守):以前三谷さんに、「日本人が当たり前にやっていたことを、アメリカ人コンサルタントが日本で研究しコンセプト化してコンサルティング商品にしたら、結果欧米で大ヒットした」という話を伺いました。日本人が無意識にやっているいい面と悪い面の両方を認識するにも、海外からの視点は役に立つということですね。

(み):そうなんですが、その価値がわかるのは少し時間が経(た)ってからなんですよねえ。

(守):確かに。

(み):当時はやはり、「あいつ何やってるんだ」と日本人には見えていました。でもその試みが数年後にアメリカで大成功してやっと、「おおっ」という感じになります。ここで、日本組織の中に、「自分たちは気が付かないけれども、海外に売れるようなネタを探す」ためのチームをつくったり、それができそうな人を招いたりすればまだよかったのかもしれません。でも当時、日本の組織にそんな余裕はありませんでした。

 海外の大企業は結構そういう自社研究をやっています。例えばGEは、大企業における新規事業研究で有名だったビジャイ・ゴビンダラジャン教授をチーフ・ストラテジー・オフィサーとして招聘(しょうへい)し、GE内での調査・分析を依頼しました。「もっとイノベーションを起こせる組織を考えてくれ」と。その成果は『リバース・イノベーション』という本になりました。その結論は「GEには、既にそういう力が備わっている」というものでした。ただその力は先進国でなく新興国、発展途上国でのオペレーションにあり、そこからもっと拾い上げて世界に拡げればいい、のだと。そのためにはもっと現地に権限移譲をして、既存ビジネスとの食い合い(カニバリゼーション)も覚悟せよ、と彼は論じました。

 イノベーションが途上国で生まれ、先進国に拡がっていくというコンセプトだったので「リバース(逆流)」イノベーションなのです。先進国で働く人や組織と、途上国で働く人や組織の「暗黙の上下関係」を逆転させたコンセプトであり、世の中に衝撃を与えました。

出所:三谷作成
出所:三谷作成

 このように、外から大学教授などを招いて自社を見てもらうようなことが、欧米企業には多々あるのです。そこから生まれた著作でもっとも有名なのはピーター・ドラッカーの『会社という概念』でしょう。ドラッカーはGMに招かれて、分権経営の研究をしました。「素晴らしいけれどもここがダメだ」と言ったら叩(たた)かれて、「こんな本など燃やしてしまえ」とGMから縁を切られました。でも、他の企業からはこの本は、「分権経営のお手本」と呼ばれ、素晴らしい著作とされました。

 その最初の実践者は誰あろう、当時GMに負かされていたフォードでした。その後、そこから学ばなかったGM自身は欧州メーカーや日本メーカーによって母国市場を奪われ、凋落(ちょうらく)していきます。

 第三者を招いて自分たちの会社を研究してもらうことは、自社の成功や失敗を冷静に見つめるためのいい手段であろうと思います。その内容を、経営陣が真摯に受け止めるのであれば、ですが。

(守):これは中国古典で言えば、皇帝や権力者が諌言(かんげん)役から耳の痛いことを言われて、自分自身を知るという話と、つながってくると思います。ただちょっと難しいなと思うのは、組織が危機的状況にあったり、権力者自身に強い動機があったりするときは、諌言を積極的に聞こうとするんですが、逆に順調なときや、権力者が堕落しているときって、どうしても動機が薄くなって、諌言役を遠ざけがちなこと。GMがドラッカーを追い出した話を聞くと、尚更(なおさら)そう思います。

日経ビジネスの連載『オリエント』が本になりました。

 KIT(金沢工業大学)虎ノ門大学院教授であり著書『経営戦略全史』で知られる三谷宏冶氏と、『最高の戦略教科書 孫子』などの著者がある中国古典研究家の守屋淳氏が、古今東西の「戦略」について語り合う『オリエント』が本になりました。

 始皇帝、曹操、孫子、渋沢栄一、 ドラッカー、スティーブ・ジョブズ、柳井正など、歴史上の人物から現代の経営者、さらに元寇や日露戦争といった歴史に残る戦いまで、2人の対談はまさに縦横無尽。「戦略」の視点からビジネスや歴史、戦争を読み解き、教養が身につく1冊です。

【目次】
1章:爆発的成長のカギ/凸凹な世界への展開/真のグローバル化
2章:イノベーションは辺境から/スタートアップの巨人/スタートアップの壁
3章:戦争が生んだIT/ビジネスや個人が支えるIT
4章:失敗の本質/家族主義・人格教育の功罪
5章:意思決定力の強化/新しい人材育成手法/自律的キャリアに向けて
6章:組織と統治のあり方/超分権的組織の実現手法/東洋的リーダーシップとは/後継者育成の覚悟

6月25日発売 2200円(税込)日本経済新聞出版

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