この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』や『論語』、渋沢栄一など中国古典や歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。
前回は、分権経営の究極である「ティール組織」の事例としてオランダの非営利団体ビュートゾルフ、全社員による「データ経営」を実践するワークマンから、伝統的な日本企業まで、幅広い事例について語りました。
今回は、「データ民主主義」を実践するAmazon、「社内通貨」によって全社員を個人事業主化したディスコなど、組織の上下関係をなくす仕組みを検討しました。

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上司たちの反対意見を一気に葬り去る
(三谷、以下み):Amazonで買い物をすると、「○○とよく一緒に購入されている商品」というおすすめ(レコメンデーション)が出てきます。お金を払う(レジに進む)前に、もう一段の衝動買いを狙っているわけです。
これを提案したグレッグ・リンデンは当時、上司たちから徹底的に否定されました。デモまでつくったのに、テストすら許されませんでした。憤慨したリンデンは、実地テストを勝手にやりました。レコメンデーション機能ありとなしとで、実際の売上の差をとったのです。そしてその機能がAmazonにもたらす膨大な利益(*1)を明らかにして、上司たちの反対意見を一気に葬り去りました。リンデンはこの行動によって「Amazonの最初期のレコメンデーションエンジン開発者」の栄誉を得たのです。
バラク・オバマの選挙運動を支援したGoogleのダン・シロカー(*2)は、そういった「データの力による上下関係の消滅」を「データ民主主義」と呼びました。実地の比較テストの結果データの前に、身分や地位の上下はなく、全ての人類は平等なのです。
だから選択肢を出して、つくって、試してみればいいのです。頭の固い上司の許可を得ることも、みなで事前に合意を取ることも、顧客をムリに説得することも、必要ありません! データ民主主義のもとでの「試行錯誤型経営」がもう始まっているのです。
(守屋、以下守):これはボストン コンサルティング グループの「アダプティブ戦略」と似ていますね。
(み):そのものです。これはデジタルだけではなくて、例えばリアルな店舗でもやろうと思えばできます。ここの店だけ実験的に変えて顧客や取引先の反応を見ようとか。
かつ、モノづくりの世界でも、そういった「手軽につくって実地で試す」やり方の波が押し寄せてきているのです。そのことについて、詳しくはクリス・アンダーソン(*3)の『MAKERS』やIDEOのCEOティム・ブラウンの『デザイン思考が世界を変える』をどうぞ(笑)
(守):ところでリンデンに反対しまくっていた上司たちは、その後どうなったのでしょう。
(み):どうなったのか知りたいところですよね(笑)。逆切れして大変なことになったのか、それともその人たちがクビになったのか、さあどちらでしょう。Amazonベゾスは「顧客第一(*4)」を信念としてきたのですから、やっぱり「上司でなく、顧客に聞いた」リンデンの勝ちでしょうね。
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