この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』や『論語』、渋沢栄一など中国古典や歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。

 前回は、チャンドラーの『組織は戦略に従う』から、日本企業における「戦略優位」の重要性を論じました。

 今回は、現代の組織経営における、『韓非子』の法治と『論語』の徳治のハイブリッド、『孫子』やGMから分権経営の本質を考えます。

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ORIENT(オリエント):原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど中近東、東ヨーロッパ、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に。

中国の古典に見る2つの手法:法治と徳治

(守屋、以下守):中国の古典でいうと、組織の統治法には2つの極がありました。まずは『韓非子』に代表される「法治」です。西欧の「法治」とは意味が違っていて、法と権力を使って組織を1つにまとめて成果を出すことを意味します。もう一方は『論語』に代表される「徳治」です。リーダーは徳を身に付けて、よき人柄や能力を基にして下からの信頼を勝ち取り、いい組織をつくろうという考え方です。

 法治の方の発想の基は、軍隊組織だと言われています。当たり前ですが、現場の軍隊はトップダウンで動く一枚岩の組織でないとガチンコの勝負では勝てません。『孫子』に代表される「兵家(へいか)(*1)」の描く組織論はみなそうです。ただし法治と兵家は、根本的に考え方が違う面を持っています。戦争の場合、兵士として駆り出される人々は、実は誰も他人のことなんか殺したくないし、自分も殺されたくない。つまり、基本的にモチベーションが低いんです。それでも彼らをやる気にさせ、しかも勢いに乗せなければ戦いに勝てない。「いかに兵士のモチベーションを上げるか」を考えないと、成果が出せないタイプの組織なんです。ですから『孫子』の場合は、例えば兵士を絶体絶命の窮地に追い落としてやる気にさせる「背水の陣(*2)」とか、逆にうまく勢いに乗せてモチベーションを上げるとか、いろいろな方策を考えています。

*1 春秋戦国時代の諸子百家のひとつ。『孫子』を書いた孫武・孫ピン(月へんに賓)の他に、『呉子』の呉起などが有名。
*2 『孫子』では「これを死地に陥れて、然る後に生く」
出所:『組織サバイバルの教科書 韓非子』より三谷作成
出所:『組織サバイバルの教科書 韓非子』より三谷作成
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