この対談企画では、戦略コンサルタントとして活躍し『経営戦略全史』の著者として知られる三谷宏治氏、そして『孫子』や『論語』、渋沢栄一など中国古典や歴史上の人物の知恵を現代に活かす研究家の守屋淳氏が、縦横無尽に世界の歴史や企業経営に斬り込み、現代日本の課題解決につながるヒントを探り、語り合います。

 前回は、ビジネスが牽引したITとして、電信、無線、電話を取り上げ、ラジオ放送を収益化した「広告モデル」の誕生を紹介しました。

 今回は、これからのITがどう変化していくのか、そしてIT業界の未来について語り合いました。

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ORIENT(オリエント):原義は「ローマから東の方向」。時代によりそれはメソポタミアやエジプト、トルコなど中近東、東ヨーロッパ、東南アジアのことをさした。転じて「方向付ける」「重視する」「新しい状況に合わせる」の意味に。

これからのIT。スマートフォンがそのカギを握る

(守屋、以下守):この先、ITはどう進化していくのでしょう。

(三谷、以下み):私はスマートフォンがデバイスとしては究極の答えのひとつだと思っています。次世代のデバイスとして、メガネ型や時計型が開発されていたけれど、なかなかひっくり返りません。やはりそれがひとつの完成形だからなのでしょう。

 スマートフォンの演算能力は、20年前のスーパーコンピュータの能力を軽く凌駕(りょうが)します。例えば、iPhone6は2014年ですが、スーパーコンピュータの性能ランキングTOP500をつくり始めたのがその21年前の1993年です。そのときトップだった機種がCM-5/1024。1台数十億円で、数少ない購入先のひとつが米国のロスアラモス研究所でした。そう、世界で最初に原子爆弾をつくった所です。いまも核兵器等々の開発を行っています。

 といっても、核兵器の開発は実地の実験が滅多にできないので、ほとんどがコンピュータによるシミュレーションで進められます。つまり開発スピードや精度が、使うコンピュータの性能で決まるのです。だからロスアラモス研究所は常に世界最高速のものを開発・購入し続けています。

 コンピュータの計算能力はよく、FLOPS(フロップス:浮動小数点計算)という指標で測られます。当時世界最速だったCM-5/1024は60GFLOPS。それに対してiPhone6は150GFLOPSとも言われています。性能は2.5倍、価格は8万分の1、コストパフォーマンスで言えば20万倍良くなりました。われわれは、核兵器を開発するために数十億円払って使われていたスーパーコンピュータよりも高い能力のものを、ポケットの中に入れているのです。

 こんなことがなぜ起きるかといえば、とにかく数が出ているからです。iPhone6はPlusを合わせて全部で2億2,000万台以上売れました。1台約6万円ですから、それ単体で約13兆円売れたことになります。CM-5/1024は当時の成功機種でしたが10台も売れませんでした。総売上は500億円ほどでしょうか。掛けられる投資の額が260倍も違う(*1)のです。CPUだけでなく、ディスプレイもカメラも通信部品も、各種センサーやアプリケーションも、この圧倒的スケールによって進化し続けます。いまやITは軍事予算ではなく民需がその進化を加速しているのです。

 

 連載第10回の話にもありましたが、スマートフォン全体でいえば、iPhoneの数は大したことはありません。全体でいえばその4倍以上が売れているわけです。なので、スマートフォンの中に何かが新しく入り込むと、いきなり桁違いの数が出るので性能が急激に上がり、同時にコストが下がっていきます。

 その典型がセンサーです。昔、携帯電話に加速度センサーなんて入っていなかったけれども、今は漏れなく入っています。加速度センサーはもともと戦闘機などで使っていたかもしれないけれども、その後、手ぶれ補正でビデオカメラに、その後デジカメに入りました。それが年間1億台出たので性能が上がり、安くもなりました。それがさらにスマートフォンに入ります。こっちは年間10億台の世界です。さらに安く高性能になっていきます。

 あと、ジャイロセンサーという、ひねり(角速度)が分かるものがあります。これはまさに軍事用ヘリコプターなどに使うことで始まり、でも家庭用ゲーム機Wiiのコントローラー「Wiiリモコン」に入ることで爆発的に数が出ました。

(守):確かに。

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