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※この記事は日経ビジネスオンラインに、2013年5月31日に掲載したものを再編集して転載したものです。記事中の肩書やデータは記事公開日当時のものです。

 企業の成果主義の導入が叫ばれて久しいが、そこから聞こえてくる評判は必ずしも芳しいものとは言えないようだ。一部では、成果主義は日本の企業風土にはそぐわないのではないかという懸念すらある。なぜ成果主義は失敗するのだろうか。

 こうした問いに答えるためには、そもそも「成果主義」が一体何を意味しているのかを明らかにする必要がある。もし成果主義を「企業に貢献した労働者を適切に報いる」という意味で用いるなら、そうした意味での成果主義は企業にとって絶対に不可欠だ。貢献と報酬のバランスが取れていない企業が従業員に適切なインセンティブ(意欲を引き出すために与えられる刺激)を与えることができないのは明白であろう。

 しかし近年取り沙汰される成果主義と呼ばれるものは、こうした意味よりはもう少し狭く、目に見えやすい「短期」のかつ「個人」の成果と報酬を明確に連動させるインセンティブ体系を、暗黙のうちに指しているように見受けられる。以下では、成果主義をこの狭い意味で定義し、こうした狭義の成果主義がもたらす潜在的な問題点について議論したい。

良い成果主義と悪い成果主義:マルチタスク問題

 良い成果主義というものがあるとして、それではその良い成果主義と悪い成果主義の線引きは一体どのような要因によって決定されるのであろうか。この問題を理解するカギの1つが経済学で「マルチタスク問題」と呼ばれる視点である。