(2014年4月15日の日経ビジネスオンラインに掲載した記事を再編集したものです。肩書などは当時のものです)

最先端の分析手法を開発していることで知られ、米マイクロソフトのチーフエコノミストでもあるスーザン・エイシー米スタンフォード大学経営大学院教授。トップクラスのビジネスと研究の双方にかかわる楽しさを語る。(聞き手は広野彩子、写真は林幸一郎)

エイシー教授は、米マイクロソフトのチーフエコノミストも務めていらっしゃいます。きっかけは何だったのですか。

エイシー:2007年の春、スティーブ・バルマーCEO(最高経営責任者)から電話でお誘いがあったのです。私がジョン・ベイツ・クラーク賞(ノーベル経済学賞の登竜門といわれる、将来有望な若手経済学者に授ける賞)を受賞したときに、雑誌の紹介記事を見て、連絡をしてきたのですよ。

 私は、1人の売り手が多数の買い手と取引するための市場づくりを調査する「オークション理論」を研究してきたので、当時、というか今でもそうですが、米グーグルと激しい競争を繰り広げていたマイクロソフトが注目したようです。オンライン広告のビジネスには、ミクロ経済学、特にオークション理論のアイデアが、たくさん盛り込まれていますから。オンライン広告であれば、広告を表示する1つの場所をめぐって、多数の広告主が入札します。

スーザン・エイシー(Susan Athey)
米スタンフォード大学経営大学院教授 1970年生まれ。経済学、数学、計算機科学を学び91年に米デューク大学を卒業、95年スタンフォード大学で経済学博士号(Ph.D.)取得。米ハーバード大学教授などを経て2013年から現職。専門はオークション理論、ビッグデータ分析。2007年、女性として初めてノーベル経済学賞の登竜門とされるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞。

グーグルでも、ハル・ヴァリアン氏をチーフエコノミストにしていますね。米アマゾンでも、パット・バジャリ氏が同じ立場にいます。

エイシー:いわゆる「ビッグデータ分析」に関して、研究の世界と、ビジネスの世界で同時に変化が起こり、ビジネスそのものを大きく変貌させていることが最大の理由だと思います。企業にかかわっていく経済学者は皆、理論を実践につなげたいと考える人たちです。

 スティーブ・タデリス氏は米イーベイにいますし、プレストン・マカフィー氏は米ヤフーからグーグルに移りました。アマゾンのパットは私のライバルです。スティーブと私は学術の世界に身を置いていますが、定期的に企業のコンサルティングに携わっています。パットとハルは、もうビジネスの世界に移ってしまいました。

エイシー:オンライン広告は、グーグル、ヤフー、マイクロソフトなどIT(情報技術)企業の収益源の1つとして重要です。みなさんが何気なく検索窓に言葉を入力して検索するたび、オークションが実行され、どの広告を表示するか決めているのです。その仕組みの設計は科学の領域なのです。

科学ですか。

エイシー:また、オークション市場を管理するのも科学の力です。オークションの仕組みが、市場の参加者の満足度に大きく影響します。オークションのルール次第で、検索ユーザーが見つける内容も変わる。それがその後のユーザーの購買行動を変え、さらには将来どの広告をクリックするかという行動すら変える可能性があります。

将来ですか?

エイシー:そう。検索のユーザーは、広告をクリックすることを通じて、どの広告にクリックする価値があるか、徐々に学んでいきます。そうしたことも頭に入れながら、市場で機能している理論と、仕組みを変えたら起こるインパクトの両方を理解する。これは本当に難しいです。

 例えばオークション市場を管理するには経済理論が必要ですし、効果を測定する技術が必要ですし、現実への影響を理解するための実験も必要です。科学的なチャレンジなのです。だからこそ、マイクロソフトの仕事をお引き受けしたのです。

かかわったのは広告オークションだけですか。

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