オークション理論は「マーケットデザイン」と呼ばれる、ミクロ経済学の分野の1つ。2012年にアルビン・ロス教授とロイド・シャプレー教授のノーベル経済学賞の授賞対象になった、比較的新しい分野だ。ところで、マーケットデザインとは何なのか? 今までの経済学と何が違うのだろうか?
マーケットデザインを専門にする坂井豊貴・慶応義塾大学経済学部教授に聞いた。
そもそも「マーケットデザイン」と言うとき、どのような内容を指すのでしょうか。オークション理論はその1つですね。グーグルの広告オークションは、経済理論に基づいて設計されています。さらに、マッチング理論というのもここに当てはまりますね。

慶応義塾大学経済学部教授
1975年生まれ。米ロチェスター大学で経済学の博士号(Ph.D.)取得。横浜市立大学、横浜国立大学、慶応義塾大学の准教授を経て、2014年より現職。国際学術誌に論文多数。著書に『マーケットデザイン入門』(ミネルヴァ書房)、『マーケットデザイン』(筑摩書房)、『社会的選択理論への招待』(日本評論社)など。個人HP
坂井:その通りです。そしてマーケットデザインという分類はごく近年のものです。オークション理論やマッチング理論などが近年、目覚ましい実用化を遂げて、それらを含む「マーケットデザイン」という分類が確立しました。
より具体的にはいつ頃のことなのでしょうか。
米国だと2000年代後半だと思います。私は2005年の春まで米国に留学していたのですが、そのときはまだ一部の先導者がマーケットデザインと言っているだけでした。ただ、「これから来る」という勢いは非常に強く感じました。
日本ではいかがですか。
日本はもう少し遅いです。私はマーケットデザインの入門書を2010年の秋に出版したのですが、当初の売れ行きはさっぱりでした。ごく一部の専門家以外には「マーケットデザインって何?」という時期だったのですね。
状況が一変したのは2012年の秋、ノーベル賞がマーケットデザインを授賞分野としたときです。これで日本での認知が一気に広まりました。入門書もそれから急に売れ始めました。
先端理論という印象が強いですが、その起源はどのあたりにあるのでしょうか。
マーケットデザインは確かに先端的ですが、いきなりぽっと現れたわけではありません。伝統的な経済学という、巨人の肩の上に乗っています。ただしその契機は1960年代初頭、非分割財を扱う経済学が誕生したあたりだと考えています。
経済学では、1950年代ぐらいまでは基本的に「分割可能な財」を研究対象にしてきました。例えばお肉とかお水は分割可能です。ところが、例えば権利、自動車、住宅、絵画のように分割できない財も世の中には多々あります。財という言い方は不適切かもしれませんが、人間というか、労働者だってそうです。それらを非分割財と呼びます。
経済学には一般均衡理論という、さまざまな財の需給の相互連関をひとまとめに取り扱う理論があります。レオン・ワルラスが1870年代に始めて、それを引き継いだ研究者たちが1950年代に原型を完成させました。ただし財が分割可能だと想定してのことです。
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