(2012年10月25日の日経ビジネスオンラインで掲載された記事を再構成したものです。肩書などは当時のものです)
先週月曜日に発表された今年のノーベル経済学賞は「(マッチング問題における)安定配分の理論とマーケットデザインの実践に関する功績」をたたえて、米ハーバード大学のアルビン・ロス教授とカリフォルニア大学ロサンゼルス校のロイド・シャプレー名誉教授に授与された。
ただし、2人同時受賞とは言っても、両氏がそれぞれ打ち立てた業績は、かなり違う特徴を持つ。ロス教授のまな弟子で筆者の親友でもある小島武仁・米スタンフォード大学助教授が、2012年10月18日付本サイトでロス教授の業績について心のこもった解説を書いていた。小島氏と同じく「マーケットデザイン」を専門とする筆者は、もう1人の受賞者・シャプレー教授の理論に迫り、解説したいと思う。
マッチング現象を初めて数学の問題として定式化し、誰もが一番ふさわしい相手とマッチできる「安定配分の理論」を生み出したのがシャプレー教授(および故デビッド・ゲール)だ。それに対し、その理論を発展させて現実の制度設計(=マーケットデザイン)にまで応用したのがロス教授である。この意味で、実は受賞者2人の業績自体がお互いを補い合う形で見事にマッチングしているのである!
では、マッチング問題における安定配分の理論を中心に、「理論家シャプレー」の貢献を振り返ってみよう。
わずか7ページの論文で全てが始まった
安定配分の理論が生まれたのは今からちょうど半世紀前のことである。1962年、数学誌に掲載された「大学入学と結婚の安定性(College Admissions and the Stability of Marriage)」と題するわずか7ページの論文によって、シャプレー教授は共著者であった故デビッド・ゲールと共にマッチングに関する数理分析の分野を切り開いた。
彼らが考察したマッチング問題は、人と人、人と組織など、2つのグループのメンバー同士をパートナーとしてマッチさせる問題を幅広く扱うものだ。論文タイトルにも含まれる「大学入学」(学生と学校のマッチング)や「結婚」(男性と女性のマッチング)をはじめとして、労働市場(労働者と企業のマッチング)やビジネス上の取引(卸売店と小売店のマッチング)など、経済活動と結びつきが深い応用例を数多く含んでいる。
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