(日経ビジネスオンラインで2015年2月2日に公開された記事を再編集したものです。肩書などは当時のものです)

米スタンフォード大学教授
1951年生まれ。71年、米コロンビア大学卒業。73年米スタンフォード大学でオペレーションズ・リサーチの修士号取得、74年同じく博士号(Ph.D.)を取得。米イリノイ大学、米ピッツバーグ大学、米ハーバード大学教授を経て2012年ノーベル経済学賞を共同受賞。2013年から現職。専門はゲーム理論、マッチング理論、マーケット・デザイン。
アルビン・ロス米スタンフォード大学教授は、経済学の「マッチング理論」を、市場や制度の仕組み作りに応用した(=マーケット・デザイン)ことで知られ、2012年、ロイド・シャプレー米カリフォルニア大学ロサンゼルス校名誉教授とともにノーベル経済学賞を共同受賞した。腎臓移植における臓器提供者と移植を受ける患者のマッチングや、研修医と病院のマッチングで、双方の希望を最大限反映できる機械的な手続き(アルゴリズム)を設計した。近年はさらに「禁断の取引(repugnant transaction)」の研究に取り組み、近々このテーマで一般向けの本も出版する予定だという。このほど来日したロス教授に話を聞いた。(聞き手は広野彩子)
ロス教授は2012年、経済理論を使って社会に役立つ仕組みを作ったことでノーベル経済学賞を共同受賞されました。研修医と配属先病院のマッチングで、数学的なマッチング理論に基づき研修医と病院双方の希望を反映したマッチングプログラムを作った実績などです。そもそもなぜこのような仕組みを考えようと思い立ったのでしょうか。
マッチングの場は素晴らしい「市場」
アルビン・ロス教授(以下、ロス):研究に着手する以前から、米国で1950年代に始まっていた研修医と病院のマッチングプログラムの課題についていろいろと聞いていました。例えば配偶者も医師である研修医をどの病院に配属させるか、といったことにどう対処すればいいのか、などです。このマッチングの「場」が、私にとっては経済学の理論を生かせる素晴らしい「市場」だと感じました。
研修医と病院の「取引」と考えるわけですね。
この「マッチング市場」は、必要な条件がそろっていて自己充足的です。マッチング作業がコンピューター化されていましたし、ほかの多くの市場に存在しないその市場独特のルールが、取引の結果にどんな影響をもたらすか、理解する機会を得られたからです。
市場の多くは、はっきり定義することが難しい数多くの(暗黙の)ルールがあります。その市場の仕組みの中で活動している人はルールを熟知しているものの、どのルールが重要でどのルールが重要でないのか、外部の人間からうかがい知ることはなかなか難しい。
しかし、研修医と病院の「市場」ではルールがはっきりしていました。市場の機能の仕方や仕組みを研究するうえで、大変取り組みやすい対象だったのです。
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