さらに19年9月、英国のFT(フィナンシャル・タイムズ)がキャンペーンを展開しました。2008年の金融危機以降、最大級のものです。「キャピタリズム(資本主義)をリセットするときがやって来た」という名前が付いています。ライオネル・バーバー編集長(当時)がすべての読者に対して書きました。「自由な企業、あるいは資本主義の健全さとは、ビジネスが目的を持って利益を生み出すことである」。そしてこうも言いました。「今変わらなければ、処方箋はさらなる痛みを伴うものであるだろう」。

問題解決こそ企業の目的

 なぜ企業が存在するのか、存在理由は何なのか、存在目的は何なのか、なぜ企業は生まれたのか、と問うているわけです。目的があってこそ、いろいろな行動が付いてくるというわけです。ビジネスリーダーがやること、あるいはビジネスに関する教育関係者、政策決定者がやることも、それに追随するのです。

 企業の目的は、ミルトン・フリードマンが言ったように、単に利益を生むだけではないのです。企業の目的は問題解決です。我々が直面する日々の生活で経験し、社会が持つ問題を解決する、世界全体が抱える問題を解決するのが企業の目的です。

 その見方の1つが、企業の目的とは利益が上がる解決策を生むためにあるというものです。単に利益を出す、あるいはチャリティーや慈善事業でもない。ビジネスと両立しなければいけません。しかしビジネスの目的は、利益を生むこと自体ではなく、解決策を提供することによって利益を得ることです。

 ビジネスで成功した人は分かっていると思います。彼らは他人や地球に問題を生じさせることで利益を得ているわけではない。成功した人は、企業の目的をきちんとつくることにコミットしています。従業員やサプライヤーの存在を前提に、企業の繁栄が付いてくるわけですから。

 そこで相互に信頼し合う関係が生じて、相互に利益が生まれる。当事者にとっても、事業や企業にとっても。顧客もロイヤルティーを高める。当事者意識を持ったサプライヤーも生まれるでしょう。それが大きな売り上げ、より大きな利益につながるわけです。

 そのための鍵ですが、これは企業が企業目的にどのぐらいコミットし、信頼に堪え得るか次第です。それが企業の価値であり、カルチャーです。価値観や高潔性、正直さ、そして目的に対する真摯な姿勢が重要になるわけです。

 企業の目的は、簡単に記述できるものではありません。例えば自動車とか洗濯機を清掃するわけではないし、単なる野心でもない。世界を救いたいというような壮大な話でもない。かなり精密な記述が必要です。

 企業が何を解決したいのか、それは誰の問題なのか、そしてそれをどのように解決するのか、解決したらどのぐらいの期間がかかるか、そもそもなぜその会社がその問題解決に適した会社なのかというような記述が必要です。

信頼を勝ち取ったノボノルディスク

 デンマークにノボノルディスクという製薬事業会社があります。現在、インスリンという、2型の糖尿病の治療薬を製造しています。数年前にノボノルディスクは「自分たちは世界で最大級の市場を捉えていないんじゃないか」と気づいたのです。

 タイプ2の糖尿病はその85%が中低所得国、つまり新興市場で発生しているからです。しかし多くの国々はインスリンを購入するお金がない。そこで同社はもう少し慎重に自社の目的を考え始めました。単にインスリンを製造するだけでは駄目だと分かった。目的は、2型糖尿病に罹患(りかん)した患者さんの治療に寄与することだと気づき、医療従事者、病院、大学と世界中で協力しました。

 いろいろな国々の国民に対してどのような治療法が適しているかを考え始めました。するとそこで分かったのは、目的はただ単に2型糖尿病患者の治療だけではなく、2型糖尿病を予防することと認識しました。目的から考え、もしかしたら2型糖尿病にはインスリン以外の治療法があるかもしれないと分かったわけです。

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