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企業の目的、存在理由を重視する経営を説き続ける、英オックスフォード大学サイード経営大学院のコリン・メイヤー教授。Withコロナ時代の株主、企業統治の在り方を考える本連載の最終回は、来日中の2019年11月6日に、日本学術振興会の拠点形成事業として、早稲田大学高等研究所、早稲田大学ビジネススクールなどの共催で開かれたメイヤー教授の特別講演の一部を紹介する。

株主は企業の目的達成を監督できているか(写真:PIXTA)

 今日は、我々の生活の中で最も重要な制度――会社についてお話します。衣食住を提供し、雇ってくれる存在です。経済を繁栄させ、成長の源となる機関です。ただその結果、同時に不平等、環境の劣化、また信用不信などの問題を引き起こしてきました。

 英国の市場調査会社イプソス・モリがこの36年間にわたって、英国人が、どの職業の人々が真実を話していると信じているのか聞き続けています。上位にあるのが医療従事者、看護師や医師です。教師と共に、幸いなことに大学教授も上位です。

 私たち大学教授はさほど権限はないかもしれません。給料もよくないし、あまり栄誉もないかもしれません。しかし、少なくとも信用されているのです。

 一方で、ビジネスリーダーは下位グループなのです。さらに下には、不動産会社、フットボール選手、ジャーナリスト、そしてワースト1が政治家です。一番信用がないのが政治家なのです。彼らは銀行家よりも下です。しかもこの35年間ずっとそうなのです。

 企業に対する信頼感のなさは少なくとも英国では極めて根深く、長期的に続いてきた問題なのです。

コリン・メイヤー英オックスフォード大学サイード経営大学院教授

 理由は、企業の「フリードマン・ドクトリン」にあります。ビジネススクールや大学などを通じて、世界各地で教えられている考え方です。ノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ミルトン・フリードマンの広めた考え方です。ルールを守る範囲において、会社の社会的な唯一の目的は、利益を拡大することである。そう主張しました。以来、それがビジネス慣行やビジネス政策の根底にあり、ビジネスの教育の根底にあります。

 ずっとそうだったわけではありません。会社というのは2000年以上前に設立されたもので、ローマ帝国で、公益事業を担っていました。公共利益を代表し、例えば徴税とか造幣をしたり、公共建造物を維持したりしていたのです。

 この2000年の間ずっと、政府の下で公的な機能を果たしてきたのです。この長い歴史の中で、最近の60年間だけ、企業の唯一の目的は利益を上げることだといわれてきたのです。それが原因で、先にも述べた不平等、格差、環境劣化、そして不信用が起こっているわけです。

技術進歩でさらに問われる「会社の存在理由」

 「会社の本質」という問題は、技術が進歩するにつれさらに深くなっていきます。第4次産業革命とよくいわれますが、社会が本当に変わってきました。今起こっていることは、多くの場合はプラスになるでしょう。しかし同時に、深刻なリスクも生んでいます。

 特にAI(人工知能)により、非常に多くのデータを今後使うことができる見通しが出てきました。それによって意思決定が助かるとされます。しかしAIの機械学習がますます高速化することで、意思決定を彼らがやってしまうこともあり得るわけです。企業の取締役会における意思決定でさえもやってしまうかもしれない。

 その結果、非常に根深い問題が起こります。誰がプログラミングをするのか、必要なアルゴリズムをつくるのは誰なのか。それを何の目的でやるのか。そして、このような企業の本質に関する見解、そしてコーポレートガバナンスの役割が本当に大きく変わってきました。

 2019年1月、最大の投資運用会社ブラックロックのCEO(最高経営責任者)ラリー・フィンクがこう言いました。「すべての企業は目的を持つべきだ。マーケティングのキャンペーンではない。根本的な存在理由を声明にしなければならない。日々の活動は何か、その目的は何か。利益を追求するだけではなく、活力になるべきだ」と。

 また19年の8月には米国のビジネス・ラウンドテーブルが「企業の目的は株主価値を最大化することではない。お客様や投資家や、従業員に対して価値を提供し、コミュニティーをサポートし、環境を維持し、長期的な価値を株主に与えることである」と声明を出しました。