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 安倍政権も、基本的には日本の企業を強くするためガバナンス改革をしようとしたわけですね。そのために、株主の企業に対する影響力を強くしようと考えた。社外取締役や機関投資家が企業経営に関与できるようになれば、今まで企業の経営者があまり外部の意見を聞かず、株主の利益を十分に考慮せずに意思決定をしていたやり方が、変わるのではないかと期待したのです。

 一方で2013年のアベノミクスが始まったときの世界の考え方は、ずいぶん変わっていました。当時の米国や英国での考え方は、企業統治改革は重要だけれども、単純に株主の力を強くして企業成長を引き上げようとは考えず、株主利益を企業経営に生かそうとしたら、弊害が出てきたという反省の時期にあった。経営が近視眼的になっているというのです。

 近視眼の弊害というのは、例えば、株主と経営者の利益を合致させようとしてストックオプションを大幅に導入したら、株価が上がると報酬が高まるので、経営者が、長期的な投資を犠牲にして短期的に株価が高まる経営に傾いたり、ひどい場合は粉飾決算をして利益をごまかし、自分の報酬を上げようとしたり、そうした事例が出てきた。

高株価演出、自社株買いのための借り入れ

 自社株買いをすると、株価が上がります。企業のお金が余ったら株主に還元するのが基本線、つまり株主のために自社株買いをするわけです。ところが米国では2013年ぐらいから、株価を上げたいから経営者が自社株買いをする、しかもその自社株買いの資金を借り入れで調達するという事象が見られた。ボーイングがその典型例といわれています。

 余ったお金を使って自社株買いをするならいいのですが、経営者が株価を上げるため借金して、場合によっては投資を犠牲にして自社株買いをしている本末転倒なケースが横行していたわけです。株主の圧力を強め過ぎたため、経営者がただ株価を高めるだけの行動を取るようになり、企業全体、社会全体に対して大きな問題をもたらしたのが、2008年のリーマン・ショック以降の米国や英国での論調でした。

 それから見ると、日本のコーポレートガバナンス改革はいわば1周遅れの側面がある。約20年前に米英がコーポレートガバナンスを改革し、経営者の利害と株主の利害を結び付けて成長しましょうと始めたものが、米英では実現され過ぎて問題が起きているから、これを企業統治改革を通じて直しましょうというのが、世界金融危機以降の米英の改革の方向です。2010年の米国のドッド・フランク法は、報酬が適正か株主に諮ることを求めていますし、2010年の英国のスチュワードシップ・コードの眼目は、企業経営者の過度のリスクテイクや短期主義を緩和するように、機関投資家の影響力の行使を動機づける点にありました。

 日本は2000年代初頭に改革が実現できなかったので、もう一度、株主の利害をもう少し強くして、成長するための改革をした。遅れたばかりに、動きがねじれてしまった。

確かに、世界の潮流から見たらねじれていますね。