株主第一、利益第一という企業経営の価値観に対して、「企業の目的は、利益を出しながら世界の問題解決に貢献することだ」と主張して異議を投げかける英オックスフォード大学サイード経営大学院のコリン・メイヤー教授。メイヤー教授と長年、共同研究に携わってきたのが、早稲田大学商学学術院の宮島英昭教授、同大学常任理事である。「成長戦略」の一つとしてアベノミクスが進めてきたコーポレートガバナンス改革について検証する研究活動を続けてきたが、「成長戦略としてのコーポレートガバナンス改革は、必ずしも成果が出なかったのではないか」という。世界的には、コロナ禍や気候変動への懸念も相まって「企業の社会課題解決」が投資家も巻き込み、大きな関心事となってきている。日本のコーポレートガバナンスはどうあるべきか。宮島教授に聞いた。(聞き手は広野彩子)
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- 第5回 2020年7月8日公開予定

宮島教授と、コーポレートガバナンスの権威である英オックスフォード大学サイード経営大学院のコリン・メイヤー教授は、以前から、コーポレートガバナンス(企業統治)について共同研究をしていると聞きました。
宮島英昭・早稲田大学商学学術院教授(以下、宮島):同世代なこともあり1990年代から付き合いが始まりました。一緒に論文を書き始めたのは2004年からです。日本の企業経営については、この20年間ずっとメイヤー教授と議論し続けてきました。
「企業の目的」という形で会社の存在理由を問うメイヤー教授の議論は、日本型ガバナンスのいいところを抽出して議論を組み立てられていました。
宮島:新型コロナ以前の議論は、日本型ガバナンスにもいいところはあるのだけれど、そのマイナス面を解決しないと、失われた20年から脱せないという問題意識でした。アベノミクスはそれを課題としていたわけですが、それがどの程度実現されたかが1つの問題でした。アベノミクスの改革が目指したことはすべて実現されたわけではなかった。そこに、コロナ禍が襲ってきた感じですね。
安倍政権のコーポレートガバナンス改革は2013年から始まりました。アベノミクスの改革は、基本線は日本企業のガバナンスは特に米国、英国に比べると従業員の力が強過ぎ、その結果、保守的な経営がまん延し、イノベーションの遅れが目立つという問題意識があった。ある程度まで株主の力を強くし、経営に関与することで、日本企業の長期的な成長力を引き出そうという考え方だった。

早稲田大学商学学術院教授・常任理事
1955年生まれ。立教大学経済学部卒業、同大学大学院修士課程修了、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得修了、早稲田大学商学博士。東京大学社会科学研究所助手、米ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員などを経て現職。経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、早稲田大学高等研究所顧問。研究テーマは日本経済論、日本経済史、コーポレートガバナンス。著作に『企業統治と成長戦略』(東洋経済新報社、2017年)、『日本の企業統治 その再設計と競争力の回復に向けて』(東洋経済新報社、2011年)など。
企業の積極投資をどう促していくか
アベノミクスの成長戦略を設定するに当たって、日本企業のROE(株主資本利益率)が世界的に見て極めて低い。また、失われた20年間の間に成長率が伸びなかった一因は、企業が積極的に投資しないからだとされていました。企業が過度に保守的・リスク回避的になっているというわけです。
お金を稼いでもため込んで積極的な投資をしない、これをどう変えていくかもアベノミクスの課題でした。コーポレートガバナンス改革は、イノベーションの促進や、経営者のマインドセットを変えて投資を促進させるといった、企業戦略と結び付けて考えられていたのです。
ただこうした考えはアベノミクスで初めて出てきたわけではなく、2000年代の初頭ぐらいから繰り返し提示されてきましたし、世界的には、コーポレートガバナンスを改革して企業の効率と国際競争力を高めることは、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の出発点といわれている英国の、キャドバリー・リポートに明確に書いてあります。1992年のこのリポートで、コーポレート改革を通じて取締役会の監視を強くして英国企業を強化し、英国の競争力を高めよう、とうたっていました。
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