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世界経済は、新型コロナウイルスと共存しながら活動を再開した。コロナ禍以前から問題となっていた格差拡大や行き過ぎた株主至上主義のもたらしたゆがみが、ここにきてまた新たな火種になる可能性を秘めている。世界中で繰り広げられる金融緩和で金融市場は「健全に機能」しているように見えるが、激変する環境の中、危機下の企業ガバナンスは今後、どうなっていくのか。リーマン・ショック後とは、何が違うのか。コリン・メイヤー教授の指摘する「企業の目的」は今後、どう変容していくのか。早稲田大学ビジネススクールで、企業ガバナンスやアクティビストファンドの活動について研究してきた鈴木一功教授に聞いた。(聞き手は広野彩子)

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第4回 2020年7月1日公開予定
リーマンショック後とは、かなり様子が違っている(写真:PIXTA)

英オックスフォード大学サイード経営大学院のコリン・メイヤー教授は、株式持ち合いやメインバンク制度などについて「仕組みはよかった」との分析です。要は、株式持ち合い自体は悪くないが、株主が株主として怠慢だったという指摘ですね。

鈴木一功・早稲田大学ビジネススクール教授(以下、鈴木):メイヤー教授の議論のベースには、日本的経営の良さに対するポジティブな評価があると思います。

 日本ではかつて、株主がものを言わないことが当たり前でした。そうした雰囲気にあぐらをかいていた部分もありますが、メインバンクや企業系列という形で、相互の監督はするけれども、表立っては物言わぬ持ち合い株主だったのであれば、 全否定する必要もないかと思います。

日本でもあるとき「これからは株主至上主義だ」という論調の変化が起こったけれども、本来の目的であったガバナンス強化がなおざりにされ、「株主第一」という手段ばかりが目的化していった経緯が、メイヤー教授の話で分かりました。

鈴木:1990年代で株式持ち合いの関係が解体されていき、いわゆる銀行によるメインバンク的なガバナンスが利かなくなりました。1990年代から2000年の頭ぐらいは、企業ガバナンスに関してはほとんど空白と言ってもいい時代でした。経営陣から見ると、物言う怖い人が全くいなくなり、ある意味やりたい放題でした。

やりたい放題だった経営者

 一方で、経済全体は全然良くならない。そこで当局や投資家が、企業経営者はやりたい放題じゃないか、何やっているんだとはたと気づいたというのが、日本におけるガバナンスに関する議論の出発点だと思います。

鈴木一功(すずき・かずのり)
東京大学法学部卒業。富士銀行(現みずほ銀行)に入社し、主にM&A部門のチーフアナリストとして、企業価値評価モデル開発などを担当。フランスINSEAD(経営大学院)でMBA(経営学修士)取得。その後、英ロンドンビジネススクールでファイナンスの博士号(Ph.D.)を取得。中央大学国際会計研究科教授などを経て2012年から現職。ヨーロッパ・コーポレートガバナンス研究所(ECGI)研究会員。(写真:稲垣純也、以下同)

 そのころ村上ファンドの村上世彰さんが間隙を突いてやって来て、株主資本主義が日本を変えるといった積極的な言論活動を展開し、一時期メディアも飛び付いて、経営者に任せておくとろくなことはないから物言う株主に監視させよう、という風潮になった。