最低賃金引き上げなどを主張する小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長と、働き方改革に情熱を注いできた味の素の西井孝明社長が、「生産性」をテーマに語り尽くす。シリーズ第3回は、「働き方改革」の必要性を巡り激突。アトキンソン氏は「興味がない。低い生産性の根本原因は別にある」と主張。一方、西井氏は「付加価値を生むには多様な人材を引き付ける職場にしなければならない」と強調する。

※本シリーズは2019年11月18日開催の日経ビジネス Raise LIVEを収録・編集したものです

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第4回利益より付加価値を増やせ~D・アトキンソン×西井孝明(味の素)

大竹剛(日経ビジネス編集):西井さんは、人事部長だったころから、いかに生産性を上げるかということを考えてきたときに、最後のピースが働き方改革だったということをおっしゃっていました。なぜ、働き方を変えなければいけないのか。

西井孝明(味の素社長、以下、西井氏):働き方改革の話をしますと、味の素グループの生産性は、1人1時間当たり約1400円です。グループ3万4000人の従業員が、1年で1900時間ほど働いたとして計算をすると、だいたい1人1時間1400円ほどになります。

 私たちは今、食品セクターでグローバルでトップ10クラス入りをしたいと考えている(編集部注:対談が行われた2019年11月18日時点)のですが、それを達成するには1人1時間当たりの生産性を30%ほど引き上げないといけません。1人1時間当たりの生産性を30%上げると、今のトップ10のギリギリの水準になるんです。

働き方改革を推進してきた味の素の西井孝明社長(右)と最低賃金引き上げなどについて提言を続ける小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長(左)が、生産性をテーマに公開討論をした(写真:北山宏一、以下同)
働き方改革を推進してきた味の素の西井孝明社長(右)と最低賃金引き上げなどについて提言を続ける小西美術工芸社のデービッド・アトキンソン社長(左)が、生産性をテーマに公開討論をした(写真:北山宏一、以下同)

 そう考えたとき、僕が社長になった当時の年間の1人当たりの平均実労働時間が2000時間から2100時間の間だったと思います。営業部門も研究開発(R&D)部門もみなし労働で働いていたので、実際の労働時間を正確に把握できていなかったのですが、だいたいそのぐらいだと思います。

 その労働時間が、2018年に1820時間になりました。これで約10%改善されたのですが、事業利益の水準は変わっていませんので、効率は10%よくなったけれども、生産性を高めさらなるバリュー(付加価値)を生み出すのはこれからということになります。

 バリューを生み出すためには、やはりいろいろな知恵の結集が必要で、そういう観点から女性の活躍も含めたダイバーシティーの推進が課題だと考えています。10%効率がよくなったのは労働時間の短縮によってですが、残り20%の生産性を高めるためには、やはりダイバーシティーを進めたい。

 ダイバーシティーを推進するには、働き方改革をさらに進める必要があります。1800時間の労働時間で1年間、全ての社員が働けるような職場になると、女性の活躍シーンが明らかに増えます。育児のための時短勤務の期間を長くしたり、あるいはいろいろな手当を増やしたりするよりも効果がある。

 具体的に言うと、育児の時短勤務をフルに使うよりも、ちょっとでも早く仕事に戻ろうという人が増えるだろうし、午後4時半に会社を出て保育園に子どもを迎えに行こうという男性社員もかなり増えてきています。恐らく、長い時間働かせるということが、さまざまな施策を効かなくしている大きな要因なのではないかと思っています。

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