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 一橋ビジネススクールの楠木建教授と社史研究家の杉浦泰氏による人気連載「逆・タイムマシン経営論」。経営判断を惑わす様々な罠(わな=トラップ)を回避するすべを、過去の経営判断や当時のメディアの論調などを分析することで学ぶ。第1章では、「AI(人工知能)」や「サブスクリプション(サブスク)」といったバズワードに象徴される「飛び道具トラップ」を分析した。

 第2章のテーマは、新しい技術やビジネスが登場するたびに「激動期が訪れた!」という錯覚に陥る「激動期トラップ」だ。最終回のテーマは、激動トラップが発動されるメカニズムとその回避法を学ぶ。ビジネス界で「革命」と騒がれている自動運転もシェアリングも、本当は「革命」ではあり得ない。

 この章ではタイムマシンに乗って近過去に遡り、「自動車」「インターネット」「期待され過ぎた革新的な製品」「テンゼロ論」を検証しました。いずれの事例も、いかに人々が「同時代性の罠(わな)」に陥りやすいかを物語っています。

 過去の記事のアーカイブを眺めていてつくづく思うのですが、この数十年に限ってもメディアでは常に「今こそ激動期!」と叫ぶものの、「今こそ平常期!」という言説にはついぞお目にかかったことはありません。

 この「激動の10年」でご自身の仕事や生活が実際のところどれだけ変わったのか、冷静に振り返ってみてください。「変わっているけど、変わっていない」というのが本当のところだと思います。

 前世紀にインターネットが普及し始めた当時を振り返ると、四半世紀を経た2020年ごろには「全ての仕事がリモート化し通勤がなくなる」「スーパーマーケットがなくなる」という未来を真顔で論じる人が少なくありませんでした。確かに電話をかけたり、銀行に振り込みに行ったりすることは少なくなりました。様々な商品を自宅に居ながら買えますし、最適な交通経路をその場で調べ、スマートフォンで地図を見ながら目的地にたどり着けるようになりました。それでも、多くの人はいまだにオフィスへ通勤し、仕事の帰りにスーパーで買い物をしています。

 本章で見たように、多くの場合「激動期!」といってもその実体は長い時間をかけた漸進的な変化です。場合によっては、激動といいながらほとんど何も起きなかったという「大山鳴動して鼠(ねずみ)一匹」を地で行くケースもしばしばあります。局所的な変化を拡大解釈して「今こそ激動期!」と騒ぎ立てるのは、ビジネス社会に深く埋め込まれた宿痾(しゅくあ)のようなもので、これからも激動トラップが続々と出現することは間違いありません。