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 一橋ビジネススクールの楠木建教授と社史研究家の杉浦泰氏による人気連載「逆・タイムマシン経営論」。経営判断を惑わす様々な罠(わな=トラップ)を回避するすべを、過去の経営判断や当時のメディアの論調などを分析することで学ぶ。第1章では、「AI(人工知能)」や「サブスクリプション(サブスク)」といったバズワードに象徴される「飛び道具トラップ」を分析した。

 第2章のテーマは「激動期トラップ」だ。技術革新が起きるたびに、なぜ「今こそ激動期!」と思い込んでしまうのか。再びタイムマシンに乗って、過去に学ぶ旅に出よう。今回のテーマは「見た目のインパクト」。セグウェイや3Dプリンター、グーグルグラスなど、当初の期待ほど普及しなかった製品や技術に共通するのは、見た目が醸し出す未来感だった?

 前回までは、「自動車」と「インターネット」に注目し、非連続な技術が登場したときに、それが一夜にして世の中を一変させるという同時代の空気が形成され、激動トラップが発動するという事例を見てきました。実際のところ、自動車が広く大衆に普及するまでには数十年という長い年月がかかりました。インターネットにしても、登場から25年を経た現在では、「インターネット革命で全てが変わる!」という当時の言説は期待過剰であり、「革命」というよりは時間をかけて徐々に世の中に受容されていくという「進化」であることが分かります。

 「木を見て森を見ず」――。ここに人々が激動トラップにはまる理由があります。製品や技術の新規性に目が向くあまり、それを使う人が現実の仕事や生活の中でどのようにその製品や技術を使い、どのような価値を享受するのかという、ユーザーの使用文脈に位置付けた統合的な理解がおろそかになるという成り行きです。

 登場した製品や技術が見るからに斬新で、人々に直観的な驚きを与える「木」であるほど、「木を見て森を見ず」のメカニズムが作動しやすくなります。つまりは「インパクトは見た目が9割」ということです。見た目のインパクトが強烈な場合、ユーザーの使用文脈という「森」を冷静に見るのは難しくなります。「木」が効果や効率の点で、顧客にとって実質的な価値をもたらすのかどうかを見極める目が曇りがちになります。

 そこで今回は過去約20年間に彗星(すいせい)のように現れ、いつの間にかフェードアウトしてしまった、期待され過ぎた「革新的な製品」を振り返り、いかに人々が見た目のインパクトに弱いかを考察します。

 これからご紹介する期待され過ぎた「革新的な製品」について、その失敗や誤算を責める意図は全くない、ということを事前にご理解ください。我々の関心は、あくまでもそうした商品が出てきたときの世の中の受け止め方にあります。いかに人々が「木を見て森を見ず」という同時代性の罠(わな)に陥り、「激動期の幻想」を抱きやすいかということを示すのが目的です。

 それでは、タイムマシンに乗って近過去へと遡ることにしましょう。最初に取り上げるのは、約15年前に注目を浴びた「革新的な乗り物」です。