本連載では、米国の大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得し、国際通貨基金(IMF)でシニアエコノミストとして活躍する筆者が、エネルギー市場を担当してきた知見を踏まえつつ、経済学者の視点から気候変動が社会に及ぼす影響を考察していく。5回目は、地球温暖化の原因になっていると見なされながら、石炭火力が経済的に必要とされ続ける理由について解説する。
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1回目地球温暖化は、人間の活動が原因だ
石炭がなぜ必要なのか(写真:PIXTA)
石炭がなぜ必要なのか(写真:PIXTA)

 二酸化炭素排出による地球温暖化問題を解決したければ、前回述べたように、根本的には新興国が石炭火力を新設するのを抑え、現存する石炭火力の早期廃棄をするしかない。そうなのではあるが、それほど石炭産業に頼っていないドイツでさえ、石炭火力の「早期廃棄」では大もめにもめた。新興国でそれが実現する可能性はかなり低いといえるであろう。

 そもそも、地球温暖化の点からは全く歓迎されていないにもかかわらず、なぜ我が国をはじめ多くの国において、いまだに石炭火力の新設計画があるのだろうか。環境面のみならず、将来、世界的に二酸化炭素回収費用を負担することが義務化されかねない状況を考慮すれば、現時点でさえ経済的には疑問の残る投資だ。

 もちろん、本来廃炉すべきだった古い原子力発電所を稼働していたほどの電力会社、及び政府だ。彼らが誤った投資判断をすることは十分にあり得る。

液化天然ガスのリスクヘッジ

 この石炭火力への投資をあえて正当化するなら、その理由の一つは地政学的配慮によるものだろう。日本が受け入れることができる液化天然ガス(LNG)の輸出国はカタール、オーストラリア、米国である。どの国も政治的には安定しており、我が国と外交関係も非常に良好といえる。

 しかし、カタールのLNGの輸送経路にはペルシャ湾があり、特にホルムズ海峡を通過する上に、中東の情勢不安の影響を直接受ける可能性も否定できない。また、欧州のLNG供給はロシアからのパイプラインに大きく依存している。

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この記事はシリーズ「国際エコノミストが斬る 気候変動の経済学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。