もちろん、世界的に二酸化炭素の価格が現在の価値、すなわち1トン150ドル以上になれば、それなりの需要の減少が起きるであろう。1トン150ドルというのは、原油で言えば1バレルあたり60ドル程度となるので、消費サイドでは原油価格が2倍近くなるのに匹敵するインパクトだ。

 一部の国では燃料税や排出量取引を導入しているが、IMFの財政モニター(2019年秋号)によれば、世界平均で見ると、現在の二酸化炭素価格は2ドル程度と安価で、需要の削減につながるレベルにはほど遠い。こうした価格の上昇に対応する形で、消費量削減につながるような技術革新(エネルギー効率の改善)が起こってくるだろうと思われる。

 ちなみに二酸化炭素価格が上昇した場合、原油の需要は減少するので、石油生産国ではむしろ生産者価格の減少に見舞われる。この炭素価格の分担割合は経済的には生産者と消費者の長期の供給・需要価格弾性値によって決まってくるが、仮に現在の原油価格が55ドル(長期的な平均値)として、最終的には消費者価格95ドル、生産者価格35ドル程度の水準に落ち着くのではないか。

 現在のところ、ガソリンなどに対する高い燃料税が課されている国がある一方で、燃料価格に対して補助金のある国もあり、政治的に受け入れられる形で炭素税が導入されるのは時間がかかると思われる。二酸化炭素価格は炭素税の形で化石燃料に負荷する形が一般的であろうが、政治的にこうした燃料税の導入が難しい場合は排出量取引などで一部のセクターから始めることも考えられ得る。(詳しくは第7回で)

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この記事はシリーズ「国際エコノミストが斬る 気候変動の経済学」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。