連載1回目で、温暖化は、人間の活動が原因だとする科学的な前提とその背景となる知見を紹介した。では、二酸化炭素の削減を、経済活動を停滞させることなく実現することは可能なのだろうか。米国の大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得し、国際通貨基金(IMF)でシニアエコノミストとして活躍する筆者が、エネルギー市場を担当してきた知⾒を踏まえつつ、経済学者の視点から考察していく。
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1回目地球温暖化は、人間の活動が原因だ
充電場所が増えなければ、電気自動車の普及は難しい(写真:PIXTA)
充電場所が増えなければ、電気自動車の普及は難しい(写真:PIXTA)

 エネルギーの効率化を政策介入によって加速することは可能だが、少なくともしばらくの間はエネルギー効率改善のための投資のリターンは大きく、政策介入なしでも効率化を実現できると思われる、と前回書いた。

 前回の2つ目のグラフ(以下再掲載)、要因分解の最初の項目にあたる「エネルギー消費あたりの二酸化炭素排出量」の削減は、二酸化炭素の回収・貯留をすることで達成可能である。具体的には、エネルギー消費に際して、二酸化炭素を排出しないもの、つまり再生可能エネルギーや原子力など別のエネルギー源への移行・転換を試みること、あるいは二酸化炭素を発生させても排出をしないことである。

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 このエネルギーの移行・転換は、温暖化対策においては特に重要な課題だ。これは資源や施設の問題が政治的な問題と絡み合い、経済学における外部経済性の点から考えると、政策介入が必須となることがある。以下で現実的なターゲットをいくつか考慮してみよう。

自家用車:ネットワークの外部経済性

 天然ガスを燃料とする自動車を造ることは、技術的に難しいわけではない。実際、一部のバス会社や配送会社は、天然ガス燃料車を利用している。特に米国ではシェールガス革命以来、天然ガスの値段がガソリンと比べて大幅に安くなっている。シェールオイルの登場により石油の値段も大幅に下がったものの、エネルギーあたりでの価格は天然ガスの方が依然として低い。経済的にも、また、排ガスのクリーン度でも石油に勝る天然ガスだが、一部の商用車および一部の国以外では普及していないのが現状だ。

 これは経済学でいえば、単純に「ネットワーク効果による市場の失敗」の例である。ネットワーク効果とは、たとえばフェイスブックなどのソーシャルメディアのように、利用者が増えれば増えるほど、製品やサービスの利便性がより高まっていくことを指す。

 市中にはガソリンスタンドはたくさんあるが天然ガススタンドがないため、結果として天然ガス自動車が普及しない。天然ガス自動車がないので天然ガススタンドはビジネスとして成り立たない。国の政策で天然ガススタンドを設置して、天然ガススタンドがどこにでもある状況にならないと、たとえ天然ガス自動車の方が経済性に勝っていても普及しないのである。

ガソリン車以外の車の「ネットワーク効果」

 電気自動車の場合は家庭用電源、あるいは多少の投資で家庭用高速充電器が設置できるので日常で使う分には問題はない。ただし、充電池のコストがその半分を占めるといわれる自家用電気自動車の価格は高く、また充電に要する時間が長いことが欠点で利便性では多少劣るところもある。また、大型車両に普及させることも現時点ではバッテリーの問題もあり、難しい。

 バスなどの場合は、一部の停留所に非接触型の充電装置を設置しておくことで、バッテリーの容量の問題を軽減することができる。だが、長距離トラックなどではバッテリーの容量による航続距離の問題と、充電時間の長さが解決されない限り、なかなか普及は難しい。

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