いまや待ったなしの地球温暖化対策。オーストラリアや米カリフォルニア州では平均気温の上昇とともに、異常乾燥による山火事が頻発している。日本でも、大型台風が直撃する頻度が高まり、被害を伴いながら発せられる地球からの警告は、他人事ではなくなっている。米国の大学で経済学の博士号(Ph.D.)を取得し、国際通貨基金(IMF)でシニアエコノミストとして活躍する筆者が、エネルギー市場を担当してきた知⾒を踏まえつつ、経済学者の視点から気候変動が社会に及ぼす影響を考察していく。
海中プランクトンの危機が、地球を酸欠させる恐れ。写真は2017年の大連の海(写真:アフロ)
海中プランクトンの危機が、地球を酸欠させる恐れ。写真は2017年の大連の海(写真:アフロ)

 地球温暖化は一般的には平均的な気温の上昇を指すが、平均気温の上昇とともに異常気象の発生頻度の上昇もその影響であり、まとめて気候変動とも称される。日本を襲った大型台風の頻度や異常乾燥によるオーストラリアや米カリフォルニア州での山火事の規模などは、気候変動による人的・経済的損失の大きさが無視できないレベルに来ていることを知らせる。その大きな要因は化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出であり、その削減は急を要する。

 政治的な要素や制度によるゆがみを除けば、経済学的にはこの二酸化炭素の外部経済性に基づいた炭素税の導入で解決できるが、政治経済学的にはどのようなアプローチがあるのだろうか。本連載では、経済学の博士号を取り、国際機関でエコノミストとして研究を続けている筆者が考察してみよう。

 (ムニューシン米財務長官がスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ氏に対し、「大学で経済学を勉強してから説明を」と言ったのに対し、彼女は学位は必要ないと返した。筆者は、学位は必要ないものの経済学を勉強している方が説明はしやすいと感じるので、どちらとも意見は衝突しない)

地球温暖化の危険性とは

 地球温暖化という名称は、地球の各地において、平均気温の数年間分の平均値が、産業革命開始以前に比べ上昇している現象に基づく。つまり、平均値は地域的な横断面と時系列で取るので、統計を理解できる人間であれば、きょう一日、東京の気温が極端に低かったり、米国のワシントンに記録的な大雪が降ったりしたからといって、それをもって即座に温暖化を否定することにはならない。実際、地球全体の大気の平均気温が前年と比べて若干低くなったところで、それは統計的な誤差だと見なされる。人間にとって、この温暖化は非常にゆっくりと進行しているように感じられるのも無理はない。

 ただ、この緩やかな気温の上昇が地球上で均一に進んでいるわけではないこと、また、氷河の融解による海面上昇といった分かりやすい現象以外にも、海水温の変動幅も上昇し、異常気象の発生頻度も上昇するなどといったことが地球温暖化とともに起きている。ある意味、米ワシントンDCの記録的な大雪は、地球温暖化の1つの現象なのである。人類には緩やかに感じられるといえども、このわずかな上昇が生態系に及ぼす影響は、よく理解されていない。

 まず人類に及ぼす影響は、異常気象の増加による自然災害によるものと、温暖化による生態系の変化によるものがある。異常気象の増加は、洪水や山火事などの影響を受けやすい地域がより損失を被ることになる。また、所得の低い地域や家計の方がより大きな損失を被る傾向が高い。これは治水、防火、または保険の購入などが所得格差により左右されるからである。

 また、今シーズン見られた日本や欧州での降雪不足によるスキー場の窮乏も、こうした異常気象による影響といえる。いくら保険契約があったとしても、異常気象が増加することで経済的コストが発生するということは、分かりやすいであろう。

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