今回のような「未知の未知」への対策は、オープンイノベーションに通じるところがある(写真:PIXTA)
今回のような「未知の未知」への対策は、オープンイノベーションに通じるところがある(写真:PIXTA)

 世界中に感染が拡大している新型コロナウイルスは中国から欧州、米国に続き、日本でも東京で感染者が急増。本稿の最終チェック段階(4月6日夕方)で、安倍晋三首相が4月7日に緊急事態宣言を発出することを発表した。誰も経験したことのないこの未曾有の危機が到来して以来、報道やSNS(交流サイト)をチェックしていると、「オーバーシュート」「ロックダウン(都市封鎖)」などというカタカナ語が多用されるようになっている。これは、これまでになかった新技術の導入を目指している時と似た感じがする。

 新規テクノロジーをビジネスに導入する際にも、日本でカタカナ語が多用されるのは、海外で既に起こっていること――実際には特段新しいことではない場合もある――に触れ、何か新しいものがあるように「錯覚」させる効果がある。情報の受け手に、英語の一次情報を確認して「これまでと何が違うのか?」と本質を考えることを妨げるため、注意が必要だ。

 特に一部のメディアや一部のコンサルティングファーム(AI[人工知能]、IT[情報技術]、新規事業、CVC[コーポレート・ベンチャー・キャピタル]関係を含める)などのように、注目を集めることで自社の収益につなげようとする事業体には、注意しなければならない。

デマをどう見分けるか

 今回の新型感染症についても至る所から情報が発信されてきたが、そこには時折もっともらしいデマが交じっていることもある。我々はここでも、冷静になる必要がある。

 例えば今回のような危機を正しく理解するには、感染症や疫学の知識が必須だ。一人の人間を診るのは医者だが、人間社会全体を診るのがパブリックヘルスという分野の専門家である。

 一般的な「公衆衛生」という日本語訳は、いわゆる「衛生」に視点を狭めてしまうのでやや誤解を与えやすい。パブリックヘルスは、産業医だけではカバーできない、心理的なストレスや情報の伝達、テクノロジーの活用、職場での健康促進や感染症予防などを幅広く含めた「社会の健康」といった方がより近いだろう。

 公衆衛生の定義については様々な提唱があるが、広く使われているのが米国の著名な公衆衛生学者であるウィンスロー氏の言葉だ。ウィンスロー氏は今から100年前、当時の世界の人口のおよそ3分の1にあたる5億人の感染者を出したスペイン風邪(日本では約2000万人が感染、日本での死亡者約40万人といわれる。第3波まであり、当時はウイルスを見る電子顕微鏡やワクチンもなく、都市封鎖をして集団免疫を待つしかなかった)が約2年で収束した1920年に、パブリックヘルスを以下のように定義していた。

 “Public health is the science and the art of preventing disease, prolonging life, and promoting physical health and efficiency through organized community efforts for the sanitation of the environment, the control of community infections, the education of the individual in principles of personal hygiene, the organization of medical and nursing services for the early diagnosis and preventive treatment of disease, and the development of the social machinery which will ensure to every individual in the community a standard of living adequate for the maintenance of health.”

 「公衆衛生とは、地域社会全体の努力によって環境の衛生、地域の感染をコントロールし、個人レベルの衛生教育を通じて疾病を予防し、寿命を延ばし、心身の健康と能率を促進するための科学技術である。医療・看護サービス機関を通じて疾病の早期発見と早期治療に努め、地域の全ての住民が健康に暮らせる生活水準の維持を確かなものにするため、社会の仕組みを発展させていくものである」(出所:American Public Health Association、編集者意訳)

 つまりパブリックヘルスは100年前から、「社会の健康」の実現を目指した意思決定に必要な、専門性の高い科学技術なのである。現代ではクラウド、AI(人工知能)、統計学の進歩や豊富なセンサー技術の登場により、データを扱う手段が多様になったことから、より証拠(エビデンス)に基づいた、より正確な意思決定ができるようになってきた。

 しかし日本ではこうしたパブリックヘルスの高度な専門性とその意義についてはあまり認識されていないようなので、余計に「聞く人を正しく選ぶ」ということが極めて重要になる。

続きを読む 2/5 親しみと正しさは別物

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