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 「純粋なECの時代はもうすぐ終わる」。アリババ集団の創業者、馬雲氏がこんな発言をしたのは2016年。この前後からアリババは百貨店やスーパーなどの小売事業者に相次ぎ出資し、ネットとリアルの融合を進め始めたことは前回、見た通りだ。今回はアリババが「ニューリテール(新小売)」と名付ける新たな戦略について、詳しく見ていく。

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第1回1日に4兆円!「独身の日」から読み解くアリババの技術戦略
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 EC時代の終焉(しゅうえん)を予言したアリババの馬雲氏。この発言を裏付けるように、アリババは中国の伝統的な小売事業者に次々に出資していった。

 2015年には中国の家電量販大手、蘇寧雲商集団に約4700億円を投じて第2位株主となった。さらにスーパー大手の聯華超市や百貨店大手の銀泰商業集団など、多くの小売事業者に、直接的あるいは間接的な投資を行った。

2015年、アリババは蘇寧雲商集団への出資を発表。中央左が当時、アリババ会長だった馬雲氏(写真:ユニフォトプレス)

 AI(人工知能)とビッグデータ・テクノロジーを活用してデジタル化に遅れた伝統的小売企業のモデル転換に取り組み、ネットとリアルの融合を進める狙いがある。

 それにしても、なぜ、馬氏はEC時代の終焉を予言したのだろうか。

 背景にあるのは、EC市場の成長率の鈍化だ。

 中国の小売業界に詳しい劉潤氏は「中国のEC化比率(小売業界でネットを通じてモノが消費される比率)は全体で15%程度に達しているが、15年ごろから増加ペースが落ちてきた。中国の人口14億人のうち、インターネットユーザーは約10億人。その中で、物流インフラなどからECに適したエリアでは、ほぼECが普及している。市場を広げるには、老人や子供、農村などに普及させていく必要があるが、これには時間を要する」と語っている。

 ECがある程度、普及してくれば、当然、市場での競争は激しくなる。それまでプラットフォーマーは消費者を「集客」する一方で、出店者に広告枠を販売する形で収益を得てきた。ネットユーザーの増加ペースが鈍れば、出店者は高い広告費を払ってでも消費者にアピールしたいもの。だが、広告費が高騰していけば、その費用対効果は薄れる。ECサイトに出店しても運営コストが膨らみ、なかなか利益を上げられなくなる。モノを売りたい側からすると、ECの魅力が薄れるわけだ。

 危機感を持ったアリババなどのプラットフォーマーは、新たな市場として全体の85%を占めるオフライン市場に着目した。もっとも、実店舗はビジネスモデルの模倣が容易で、参入障壁が高くない。オンラインのような規模の利益は得にくい。

 そこで、「オフライン市場をオンラインの世界へ引っ張り込む」ことを考えた。オンラインを通じて理解した「若年消費者のライフスタイル」に基づき、これに合致したサービス・空間の提供を、最新テクノロジーを用いて実現しようとするのが、市場獲得の観点で見た「ニューリテール」戦略だと言える。