消費者の代理人として利益を最大化

 アリババの歴史を振り返ると、下の図に示すように4つの発展段階があることが分かる。

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 まずは1999年の創業以来、手掛けているEC(電子商取引)事業。今でこそ、消費者向けのネット通販事業がアリババの成長の源泉になっているが、最初は企業向けからスタートしている。その1つが中国の中小企業と、海外のバイヤーをつなぐ「Alibaba.com」。同様に中国国内で、事業者とバイヤーを結びつける「1688.com」がある。

 アリババには次のような理念がある。「ビジネスの難しさを取り除き、ビジネスをどこにいてもできる容易なものにする」「ビジネスパーソンと顧客が、互いに相手を見つけ出せるようにサポートする」

 創業以来、大切にするこの理念に基づき、「販路や経営体力に乏しい中国の中小企業に、海外輸出や国内販売の道を開こう」としたのだ。

 Alibaba.comは今では世界200カ国以上の1億を超えるバイヤーが、中国その他の主要製造国の売り手を探し出して商品を買い付ける場になっている。

 企業向けのネット通販事業で足場を築いたアリババが個人向けに事業の幅を広げたのは2003年だ。モノを売りたい人と買いたい人を結びつけるサイト「淘宝網(タオバオ)」を立ち上げた。

 1999年に890万人だった中国のインターネット利用者数が04年末には9400万人と急速に増えたことが個人向けに乗り出した背景にある。同時に、当時の中国では流通業が未成熟のために、モノを売りたい人、買いたい人の双方に「困りごと」が存在していることも商機ととらえた。

 ただし、アリババには強力なライバルがいた。当時、世界最大級のEC企業だった米eBay(イーベイ)である。同社はその時点で中国市場で圧倒的なシェアを握っていた。

 後発のアリババはどう米国の巨人に挑んだのか。

 1つは、出店者に対して開業3年間はタオバオへの手数料を無料にすることだった。さながらソフトバンクグループが決済アプリ「PayPay」に巨額のキャンペーン費をつぎ込み、顧客を開拓する作戦と似ているが、アリババはそれだけで終わらなかった。

 オンラインチャットツール「旺旺」を通じて、売り手と買い手が直接、問い合わせや値引きなどのコミュニケーションを取れるようにしたのだ。当時は実店舗で値引き交渉が当たり前の時代。来店客は衣服を買うにも店員に「素材は何だ」「在庫はあるのか」など質問攻めにする。そんな店員とのやり取りも、ショッピングの楽しみの1つなのだ。タオバオは中国のリアルな場での買い物風景をネット上に持ち込むことで、消費者の心をつかんだ。

中国河南省許昌市の靴事業者はタオバオを販路として使う(写真:ユニフォトプレス)
中国河南省許昌市の靴事業者はタオバオを販路として使う(写真:ユニフォトプレス)

 イーベイからシェアを奪うもう1つの要因が、オンライン決済である。「ECだけじゃない、アリババ金融帝国の実力」で見た通り、アリババは04年に第三者預託(エスクロー)型のオンライン決済サービス「支付宝(アリペイ)」を立ち上げた。信用情報が未整備の当時の中国で、売り手の「商品を届けても支払われない」、買い手の「代金を支払っても期待した商品が届かない」という不安を解消。これが決定打となって、アリババは06年にシェアで逆転し、イーベイはその後中国市場から撤退することになる。

 中国の消費者向けネット通販市場で80%超のシェアを握ったタオバオだが、実はアリババは07年時点でも収益化できていなかった。そこで08年に立ち上げたのが、「天猫(TMALL)」だ。タオバオは基本的に個人対個人(CtoC)型のサイトだが、TMALLは企業に出店してもらい、消費者向けに商品を売る企業対個人(B2C)型。タオバオでつかんだ消費者に直接、名のあるブランドショップを紹介することで、取引の活性化を狙った。

 タオバオを入り口に消費者をTMALLに誘導し、出店企業から出店料や販売手数料、決済手数料を徴収することで、収益化を図ろうとしたのだ。アリババのサイトに集まる消費者が増えれば、広告枠の価値も高まる。これも大きな収益源となる。

 整理しよう。アリババはEC事業でまずは顧客体験を追求し、顧客(消費者)の代理人としてその利益を最大化しながら、顧客基盤を拡大することに注力。プラットフォームのトラフィック(流量)を確保して手数料を得るほか、企業に広告枠も販売して収益化を実現した。

 実はアリババは広告の販売による収益モデルを成立させるために、一工夫凝らしている。アリババのプラットフォームに多くの目が寄せられるようになる近道は、中国の検索市場で圧倒的なシェアを誇る百度(バイドゥ)を経由することだが、これでは広告主がアリババに広告を出す意味は薄れてしまう。バイドゥに出せば済むからだ。

 そこで、アリババは技術的な障壁を設けて、バイドゥ経由で検索されないようにした。顧客の主要アクセスルートを失うリスクを伴う戦術だったが、結果はアリババサイトへの直接アクセスが、次第に増加。そして、アリババの顧客ベースが拡大するにつれて、中国で最も価値あるインターネット広告プラットフォームとして収益モデルを確立できた。プラットフォームの重要な戦略である、「誰からお金をもらうか」の設計と実行の成功例として参考になるだろう。

 ネット通販事業という基盤を築いたアリババ。次回は第2段階以降の発展戦略を見ていく。

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