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 アリババ集団の事業を分析する上で、金融サービスを手掛ける「アント・フィナンシャル」の存在を無視することはできない。世界ナンバーワンのフィンテック企業とも称され、グループ戦略における中核的な役割を担っている。日本でも知られるオンライン決済の「支付宝(アリペイ)」のほか、「余額宝」と名付けた投資商品や、保険商品の「相互宝」など、幅広く金融サービスを手掛ける。そんな「アリババ金融帝国」の実力を分析してみよう。

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中国では公共バスの支払いも「支付宝(アリペイ)」でできる(写真:ユニフォトプレス)

 筆者は、アント・フィナンシャルのイノベーションの中核は次の2点だと考えている。

(1)顧客(消費者、企業)の行動や、取引流・物流などに応じて、必要なときに必要な場所で、金融サービスを提供。金融機能の側から、顧客に近づいていく。
(2)伝統的金融機関のサービスの対象になりづらかったロングテール顧客層(消費者、中小企業)へのサービス提供(金融包摂)

 そもそも、EC(電子商取引)サイトを立ち上げたアリババが金融事業を手掛けるようになったのは、実体経済の金融ニーズに伝統的な金融機関が対応できていない問題に対応するためだった。モノを売りたい個人や中小事業者と、モノを買いたい消費者を結びつける場として2003年に開設した「淘宝網(タオバオ)」の利用を広める上でネックとなったのが決済。売り手は「商品を発送しても支払われないかもしれない」という不安を感じ、買い手も「支払っても商品が届かなかったらどうしよう」とやきもきする。当時の中国ではオンライン決済のインフラが十分に整ってなかったのだから、当然だ。

 このギャップをエスクロー(第三者預託)の仕組みで解決したのが04年に登場したアリペイだ。消費者から一時的に代金を預かり、注文した商品が消費者の手元に届いた時点で販売業者に代金を支払う仕組み。第三者を介在させることで、顔の見えない相手と確実にお金をやり取りするモデルを確立した。

 アリペイはその後、「安心、簡易、低コストの決済手段」を求めるニーズに応じて、タオバオ以外のEC事業者にもアリペイを開放。08年からは電気、水道、ガスなどの公共料金の支払いも扱うようになった。

 13年にスタートした個人資産運用サービス「余額宝」も実体経済の金融ニーズと伝統的な金融機関が対応できないというギャップに応えたものだ。ここでのギャップとは、一般市民にとって少額から簡易にスタートできる投資チャネルが不足していること。アリペイの口座から余額宝の口座に資金を移すだけで、元本保証、年利5%など高利回りの投資を可能にし、しかも日割り計算で運用もできる。そんな使い勝手の良さから、余額宝で資金を運用しようと、銀行口座からアリペイの口座に預金を移す人が続出。これがアリペイを本格普及させた主因だともいわれている。

 アリババが革新をもたらしたのは、消費者向けの金融サービスだけではない。中国の金融政策当局の長年の政策課題であった、中小企業や個人事業主に資金が回らない課題の解決にも貢献している。例えば、「阿里小貸」は、プラットフォーム上の取引データなどを生かして借り手の信用を評価することで、中小企業への少額融資を実現している。

 これらの取り組みから見えてくるのは、アリババの金融事業が、既存金融市場での「困りごと」を解決しながら、EC事業を補強する形で成長してきたことだ。14年には金融事業を独立させる形でアント・フィナンシャルを設立、フィンテック事業の強化を本格化させた。

 そんなアント・フィナンシャルの理念が「信用が富を生む」。データに基づく信用を軸に「顧客(消費者)と金融機関やパートナー企業をつなぐ経済圏(エコシステム)を形成」することを目標として掲げている。

 では、アント・フィナンシャルはどうやってエコシステムを作り出すのか。そこには綿密な設計思想がある。