立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長の世界史講座。最終回は第2次大戦後から現在までの世界。「5人のポリス」で世界を仕切るというルーズベルトのビジョンは破れ、冷戦が始まる。米ソは宇宙開発と軍拡を競い、中国では毛沢東による文化大革命が起き経済が停滞する。そのような状況で日本は工業化で復興を遂げ世界第2の経済大国に。その後、中国は鄧小平が実権を握り急速に発展。ソ連ではゴルバチョフが登場し冷戦が終結し、アメリカは軍事技術だったインターネットを民間に開放。冷戦終結とインターネットの登場という変化に対応できなかった日本は打撃を受ける。
そして、アメリカ同時多発テロで幕を開けた21世紀。リーマン・ショックや東日本大震災など災難続きだが、それでも世界は確実に良くなっている。
■目次
- 「5人のポリス」が仲たがいし米ソ冷戦が始まる
- ワシントン-北京枢軸は実現せず。幸運だった日本
- サンフランシスコ講和条約と日本の独立
- 米ソの宇宙開発競争とキューバ革命、そしてベルリンの壁
- 欧州統合の思想的基盤を作り上げた独仏の和解
- 「革命」の夢を追った毛沢東の文化大革命
- キッシンジャーの極秘訪中と米中の深いきずな
- 鄧小平が格差を認め、中国を発展させる
- イラン革命とアフガニスタンのゲリラ
- 信念の政治家ゴルバチョフと冷戦の終結
- 冷戦終結で一番打撃を受けたのは日本
- 21世紀はテロで幕を開けたが世界は良くなっている
※本ゼミナールは、「2019年度APU・大分合同新聞講座」を収録・編集したものです

1948年、三重県美杉村(現・津市)生まれ。1972年、京都大学法学部卒業後、日本生命保険相互会社入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年、ライフネット生命保険株式会社に社名を変更。2012年上場。10年間社長、会長を務める。2018年1月より現職。(写真:山本 厳)
「5人のポリス」が仲たがいし米ソ冷戦が始まる
「5000年史講座」の最終回は、第2次世界大戦後の世界です。
アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領は、大戦終結後の世界の見取り図をつくった上で第2次世界大戦に参戦しました。第2次世界大戦が起きた理由の1つは、1929年の世界大恐慌です。ルーズベルトは「金融はめちゃ怖い」ということが分かっていたので、先に国際通貨基金(IMF)や世界銀行をつくって金融で世界を安定させ、それから国際連合をつくることにしました。そして、5人のポリス、つまり、自分と連合王国(UK)のチャーチル、フランスのドゴール、ソ連のスターリン、そして中国の蒋介石で世界を仕切ろうと考えました。しかし、戦後、米ソの関係が悪くなります。
1946年にチャーチルが有名な「鉄のカーテン」演説を行います。そして、東ヨーロッパと西ヨーロッパの分断が進みます。
さらに1946年6月には中国で国共内戦が始まりました。当時は中国の4分の1ぐらいが共産党の支配下で、4分の3は国民党政府が押さえていました。しかも、国民党政府はアメリカが支援していますから、武器弾薬も豊富で普通なら勝つはずです。
ただ、この頃の共産党は大変しっかりしていて、毛沢東が「三大紀律八項注意」という有名なルールを共産党軍に示します。これは簡単にいうと「お百姓さんのもの、人民のものは何一つ取ってはいけない」というものです。それに対し、蒋介石の国民党は戦争を始めたら、村にある物資を勝手に持っていきます。ですから、共産党は村人から支持されて、蔣介石を台湾に追い払ってしまいました。
これで、アメリカは目算が狂いました。早くも5人のうち、1人が脱落したのです。
アメリカは1947年に「マーシャルプラン」を出します。お金を出すから、みんなでヨーロッパを再建しようという計画です。これには東欧も含まれていたのですが、「アメリカからお金をもらったらアメリカの言いなりになるやんか」と、初めからソ連、東欧は不参加でした。既に冷戦が始まっていたのです。
マーシャルプランに対抗するような形でスターリンは「コミンフォルム」という共産党系の組織をつくりました。これには東欧だけではなくて、フランスとイタリアの共産党も入っています。
ドイツは前回お話ししたように、ソ連、アメリカ、UK、フランスの連合国が分割占領していました。でも、米ソの対立はのっぴきならないものになり、1948年のロンドンコミュニケで西側3カ国の占領地域を統合して西ドイツをつくることになります。
これに対しスターリンはベルリンを封鎖します。ベルリンはドイツの東の方にありますから、ソ連の占領地域(東ドイツ)の中にあるのですが、ベルリンだけはドイツの首都ということで、4カ国で分割占領していました。西側の西ベルリンの食料などは自動車や鉄道といった陸路で補給していましので、ソ連は陸路を封鎖したのです。「こうすれば西ベルリンは干上がるだろう」とスターリンは考えたわけです。
これに対しアメリカは飛行機をがんがん飛ばして補給を続け、「全然困らないよ、やれるものならやってごらん」と空輸で対抗しました。それでスターリンは諦めて封鎖を解きます。
イスラエルが独立して、同時にアラブとの戦争が始まり、イスラエルが勝って建国します。朝鮮もこのときに大韓民国と北朝鮮に分かれた形で独立します。
1949年になると、マーシャルプランに対抗して東ヨーロッパでは経済相互援助会議(コメコン)ができ、西側諸国は軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)をつくります。そして、アメリカは西ドイツを独立させます。これに対抗して、ソ連も東ドイツを独立させます。
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