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アレクサンドロス大王とクレオパトラ

 実は、当時のペルシャの仮想敵国はどこかというと、北方ユーラシアの大草原で初めての大帝国を開いたスキタイでした。ダレイオスは今のイスタンブールまで出掛けていってボスポラス海峡に橋を架け、大軍を中央ユーラシア、今のロシアに向けて出立させます。

 スキタイはとても勝てないということで焦土戦術を採って、国土を焼け野原にしてどんどん後退していきました。これはナポレオン1世やヒトラーに対してロシア(ソ連)がやったことと同じことですよね。ところがナポレオン1世やヒトラーと違って、ダレイオス1世は軍を返すのです。「2〜3発殴ったから、しばらくは痛みを忘れないので、当面悪さはしないだろう」と。ダレイオス1世の伝記が残っていないのはとても残念ですが、実績を見ると世界帝国をつくりグローバリゼーションを始めた大帝国にふさわしい、大変賢い人だったのではないかと思います。

 この、ダレイオス1世のつくった世界帝国を、王の道を上手に使いながら簒奪(さんだつ)したのがアレクサンドロス大王です。アレクサンドロス大王は大帝国をつくったのではなく、ダレイオスの帝国のインフラを使いながらそこを乗っ取ったと考えると分かりやすいと思います。アレクサンドロス大王はアカイメネス朝を滅ぼした後、「俺の言語が世界言語だ」ということで、コイネーと呼ばれている口語のギリシャ語をアッカド語、アラム語に続く第3のリンガ・フランカとします。そこはちょっとダレイオス1世とは違うんですね。でもアラム語はずっと続いていて、後にイエス・キリストが説教をしていた言葉もアラム語でした。

 アレクサンドロス大王の死後、後継争いが生じます。アレクサンドロス大王の大帝国は、シリアからユーラシアに至る部分を取ったセレウコス、ギリシャを取ったアンティゴノス、それからエジプトを取ったプトレマイオス、大きく言えばアレクサンドロス大王の大帝国はこの3つに分割されます。ただ、お葬式をやる人が衣鉢を継ぐ人だということで、プトレマイオスはアレクサンドロス大王の遺骸を奪ってお葬式を行い「自分が1番の後継者だ」と言おうとします。

 アレクサンドロス大王には妹がいました。名前をクレオパトラといいます。プトレマイオスはクレオパトラに求婚します。アレクサンドロス大王の葬式をやった、実の妹ももらった、後継者にふさわしいでしょう。秀吉のようですね。葬式をつかさどり、信長の姪にあたる淀君をもらった。

 ところが、ギリシャにいるアンティゴノスがそれを許すはずはない。クレオパトラは殺されます。ただ、代々この王朝は王女の名前にクレオパトラを付けます。シーザーの恋人であったクレオパトラは7世にあたります。

 自分こそが後継者と思っているプトレマイオスがやったことは、ムセイオンと呼ばれている大図書館、大博物館をつくることでした。これも、サルゴンやアッシュールバニパル以来の世界帝国は大図書館や大博物館をつくるという伝統を引き継いでいます。ですからアレクサンドリアが文明の中心になるわけです。世界中の本を集め、特に貴重な本は別の棚を設けて大事にしていました。その棚に集められた本をクラシックと呼び、そこからクラシックス、古典という名前が生まれているのですが、もとはムセイオンからです。