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史上空前の世界帝国と人類初のグローバリゼーション

 カタストロフィの後、小さい国の人々が頑張っていたのですが、エジプトまで遠征しメソポタミアとエジプトを初めて統一したアッシリアによって、史上空前の世界帝国がつくられます。アッシュールバニパルという王様は有名ですよね。しかしメソポタミアとエジプトはあまりにも遠い。1つの国家をつくっても統治技術が発達していなくて官僚もばらばらですから、ものすごく強くてカリスマ性のある王様がいる間はみんなおとなしくしているのですが、その王様が死んだらあっという間に瓦解するのです。

 アッシリアが瓦解した後、カルデアという国のネブカドネザルという王様がバビロニアを統一します。新バビロニア王国です。バビロン捕囚という有名な物語がありますね。

 ここで「ダビデやソロモンというイスラエルの王様の話は?」と思われるかもしれませんが、実はいくら掘ってもB.C.1000年ごろのダビデ、ソロモンの時代のエルサレムの人口は1000人を超えないのです。現在の学問ではダビデやソロモンが実在したこと自体を疑う見解が圧倒的です。

 アッシリアの後にアカイメネス朝というペルシャ人の大帝国が誕生し、ダレイオス1世という王様が現れます。人類初のグローバリゼーションはこの王様によって始まったと考えられています。

 アッシリアが簡単に滅んだ理由は、統治技術が十分ではなかったからでした。大帝国を維持するために一番大事なのは情報です。昔は電話もパソコンもメールもありませんから、広い国の中で反乱が起こっても分からないわけです。放っておいたら反乱が大きくなって、気が付いたら首都の近郊に大軍が迫っている。これが昔の姿でした。

 しかしダレイオス1世はそれでは大帝国は維持できないなと考えて、道を整備します。「王の道」といわれています。駅伝の制度をつくって、ウマが疲れたところに宿駅を設けて、そこに代わりの伝令やウマを置いておいて、広い大帝国の中で何かが起こったらすぐに自分の耳に入るようにしました。情報ルートを整備することによって大帝国を維持しようとしたのです。

 ほかに、ダレイオス1世はリンガ・フランカをアラム語に変えて、アッカド語に次ぐ第2のリンガ・フランカをつくりました。アラム語というのは、シリアのダマスカスを中心に地中海の港で陸揚げされたものをメソポタミアまで運ぶ隊商をやっていたアラム人の言葉です。普通に考えたら、ペルシャ人が世界帝国をつくったわけですから、リンガ・フランカは自分たちのペルシャ語にしますよね。でも帝国内で一番多く使われているアラム語にした。合理的ですよね。ここがダイオレス1世のすごいところです。大帝国の統治技術の原型はほとんどダレイオス1世がつくっています。

 それからサトラップという知事。地元の有力者を「俺の言うことを聞くなら今まで通りお前の地位をキープしてやる」と。自分の部下に差し替えたらやっぱり文句を言うでしょう。だから地方の君侯はほとんど全員、そのままの地位を認めます。しかし、今までは反攻していたわけですから100%信頼してもいけないので、監察官をつくりました。これも大帝国を統治するための技術ですね。また、貨幣を統一し、カナートという地下水道を造って灌漑(かんがい)を全土に広げていきました。

 ダレイオス1世の時代に大帝国を統治する技術のほとんどが出来上がって、ギリシャ人もどんどんやって来ますので、ヘレニズムはダレイオス1世の時代に始まっています。その後、ペルシャ戦争が起こりますが、これは大帝国の一地方の反乱です。ヘロドトスが『歴史』に盛って書いたので、何か自由なギリシャ対専制のペルシャのようなステレオタイプな見方がありますが、帝国の西方にいたギリシャ人が反抗したので、ダレイオス1世がたたきに行ったらギリシャはすごく狭いところで大軍を使えない。それで窮鼠(きゅうそ)猫をかむでかまれてしまったという話です。そんな不便なところにいる人間を必死にたたいてもしょうがないから、あとは外交戦で十分だと考えて兵を引いたのです。