「サボりたい」から生まれたイノベーション

 フェニキア人はアルファベットを作ったことで有名です。アルファベットは、もとは原カナン文字、パレスティナやシナイ半島で生まれています。なぜかというと、当時の文明国はエジプトとメソポタミアで、メソポタミアはくさび形文字、エジプトはそれに影響を受けたヒエログリフ、象形文字を使っていました。バビロンに生まれた賢い子供は、くさび形文字を覚えたら、年収1000万円で書記として王様の近くできれいな仕事をできるわけです。当時の仕事って兵隊か農民ですから、それに比べたら涼しいところで字を書いているって楽でしょう。

 エジプトで生まれた賢い子供も、象形文字を覚えたらやっぱり楽な仕事をしているわけです。両文明の交差するシナイ半島はというと、両方覚えなければ年収1000万円にならない。そうするとシナイ半島やパレスティナの人々は「こんなややこしいもの2つも覚えるなんて嫌だ」と。どうしたら楽ができるかを考えて、アルファベットを生むのです。

 イノベーションというのはサボりたいという気持ちから生まれるんですね。まじめな人はイノベーションを生まない。楽をしたいという気持ちが人類史上、イノベーションを生んできたのです。

 中国でもその頃、「牧野の戦い」という有名な戦いがあり、商(日本では殷とも呼ばれています)という国から周という国に王朝の交代が起こります。これは「商周革命」と呼ばれていますが、神様の名前が変わります。商のときは先祖神である帝だったのですが、周になると天になります。周は長く続いたので、今でも天下とかいうでしょう。天の下です。これは周の神様の下に我々が住んでいるという意味です。

 商は祭政一致体制で、戦争をするときも最初はお互い神様にまず祈ってから戦争をするというシステムだったのですが、周の時には祭政分離が行われ、さらに語順が変わります。商の時代は辛という名前の王様なら「帝辛」でしたが、周以降は「武帝」「始皇帝」のように被修飾語が修飾語の前に立つようになります。商周革命は大革命だったといわれています。

 B.C.1500年ぐらいにアーリア人という、インド・ヨーロッパ語族がインドに入ってきます。昔はアーリア人がインダス文明を滅ぼしたといわれていましたけれど、数百年のタイムラグがあるのでインダス文明は気候変動で滅んで、その後アーリア人が入ってきたと今では考えられています。

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