伝統的な仕事着「前掛け」の企画、製造、販売を手がけるエニシング(東京・港)。ネット販売から人気が高まり、需要の拡大が産地復活につながった。海外の展示会で注目され、コロナ下も海外売り上げを伸ばしている。

<span class="fontBold">西村和弘(にしむら・かずひろ)<br />エニシング 社長</span><br />1973年広島県出身。中央大学在学中に米カリフォルニア州に1年間留学。卒業後、江崎グリコ勤務を経て2000年にエニシングを起業。Tシャツを販売する中で日本の伝統的な前掛けと出合い、企画販売を開始。国内に加え海外30カ国に販売している
西村和弘(にしむら・かずひろ)
エニシング 社長

1973年広島県出身。中央大学在学中に米カリフォルニア州に1年間留学。卒業後、江崎グリコ勤務を経て2000年にエニシングを起業。Tシャツを販売する中で日本の伝統的な前掛けと出合い、企画販売を開始。国内に加え海外30カ国に販売している

映画「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」で、科学者「Q」が自宅でお客をもてなすシーンで着けていたエニシングの前掛けが話題になりました。伝統的な前掛けが、海外では個性的でスタイリッシュなものと認知されているのですね。

西村:2020年1月に続き、コロナ下の21年9月にパリで開催された展示会メゾン・エ・オブジェに出展しました。特に欧州のバイヤーの人たちからは、歴史のあるものに対するリスペクトや、実際に触れて良さを認識してくれていることを感じます。

 海外への売り上げはこの2年でぐっと伸び、21年は売り上げの2割が海外向けになっています(20年12月期の売上高は約1億円)。

やっと探り当てた産地

<span class="fontBold">エニシングの豊橋前掛けファクトリー(愛知県豊橋市)</span>
エニシングの豊橋前掛けファクトリー(愛知県豊橋市)

伝統的な前掛けは、飲食店のユニホームなどでよく目にします。国内ではどのような需要があるのでしょうか。

西村:ビールメーカーが居酒屋向けに作る前掛けや、プロ野球球団やミュージアムショップのグッズなど。全体の約7割が法人向け需要です。

 インバウンド向けの販売も大きかったので、新型コロナの影響で需要は減少しましたが、それを海外向けがカバーしました。売り上げ全体としてはやや増加という状況です。

前掛けの伝統的産地である愛知・豊橋の自社工場で、昔ながらの製法で前掛けを織るメーカー。となれば、もともと豊橋の出身、豊橋の企業と思われることがあるのでは。

西村:全く違うんです。エニシングの本社は東京で、私は広島県の出身です。大学を卒業して就職した後、日本文化を世界に発信しようと漢字Tシャツの販売会社を2000年に立ち上げました。そして4年後、扱い商品の1つとして、前掛けと出合ったのです。

 ネットで前掛けが作れるサービスがほかになく、検索するとうちぐらいしか出てこなかったため、多いときは100枚、200枚単位の注文がありました。

 ところが東京・日本橋の問屋に仕入れに行くと、それだけの在庫がない。直接産地を探そうとしたんですが、業界の人に調べてもらっても分からなかったんです。

 人づてに聞いて訪ねていっても、生産はよそに出していると言い、その先を調べてもよく分からない。分からないことで余計に興味が湧き、半年ほど探しました。その結果、紹介された豊橋の職人さんが、実は日本橋の問屋を通じてうちが注文していた前掛けを作ってくれていた人でした。

 その方を豊橋に訪ね、職人の方たちと一緒に食事をした席で「みんなもう高齢だからやめようと思っている。前掛けの産地なんてここしか残っていないから、君たちはTシャツを一生懸命やったほうがいいよ」と言われました。

 帰りの新幹線の中で、一緒に行った社員と「どうする?」と話しました。あの人たちが仕事をやめたら、もう頼めなくなってしまう。前掛けは、量は少ないが確実にネットで売れていたし、届けたお客さんからは電話がかかってきたり写真を送ってくれたりと、感謝される度合いが他の商品とは全く違っていたんです。

 本格的に前掛けの販売に取り組んだら、可能性があるんじゃないか。そう考え、ホームページも「前掛け専門店 エニシング」に変えました。

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