年齢も役職も関係なく、全員が意見を戦わせ、会社を動かす。業態開発・改善力に優れる物語コーポレーションの力の源はこの社内文化だ。もの言う社員の育成は簡単ではないが、環境を整えれば可能性はある。手っ取り早い方法は、トップが率先垂範することだという。加治幸夫社長に自己開示できる社員の育て方を聞いた。

1956年生まれ。外食の世界に30年以上身を置く。2011年、小林佳雄特別顧問に請われて、物語コーポレーションに入社し、社長に就任(写真:皆木優子)
そもそもなぜ、もの言う社員が必要なのでしょうか。
飲食業界は参入障壁が低いので、競争が激しいんですよ。いつも新しいものを生み出して、陳腐化を打破することが必要です。いち早く次のステージに向かっていくには、自浄作用というか、社内で開発や改善をする数とスピードが要求されるんですね。
であれば、一部の人間が店を回って、「ここは駄目」「あれは駄目」「今度これをしよう」と言っていたら間に合わない。いろいろなところからいろいろなアイデアが出てこないと、やっていけません。それには、自分の意見や考えを誰の前でも堂々と言える社員が必要なのです。
うちの会社では、何を考えているか分からないというのが最も嫌われます。意思決定と自己開示は当社の社員にとって必要不可欠なスキルです。とはいえ、すぐに誰もが率直で正直になれるわけではありません。だから繰り返し教育するのです。
意思決定と自己開示
具体的にどんな取り組みをしているのですか。
入社半年後の社員を対象に、1泊2日で「むすび研修」を実施しています。基本的なテーマは自己開示と他者受容です。難しいことではありません。「自分はこんな人間です」と相手に伝えたり、「あなたはこんなふうに見えていますよ」ということをお互い言い合ったり。それを踏まえて自分と向き合う研修です。
これに限らず、研修全般に共通しているのは、教える内容いかんにかかわらず、ディスカッションや個人の発表が主体であるということです。つまり、自己開示の場を与え、醸成を図っているわけです。社員は大変だと思いますよ。居眠りしていられませんからね。
むすび研修は言ってみれば模擬体験で、実地で意思決定と自己開示を学ぶのが「上海亜僑研修」です。入社5年の社員を対象とした4泊5日の研修です。ちなみに亜僑とは、特別顧問の小林佳雄の造語で、アジア人として誇り高く生きるという意思を表明した言葉です。
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