酒を飲みながら大真面目に話す稲盛流コンパ
コンパといってもバカ騒ぎはしない。毎回、必ずテーマを設ける。「成果を出す店長と出せない店長の差は何か」など仕事の話をテーマに立てるときもあれば、「利他の心はどうしたら養えるか」といった心の問題を取り扱うこともある。そうしたさまざまなテーマについて、酒を飲みながら大真面目に話すのが、稲盛流コンパだ。
酒に酔えば本音が出やすい。時には相手の人間的な部分にまで踏み込んでしまう。激しく言い合いになることもあるが、本音でぶつかれば信頼関係は深まる。「こいつ、そんなことを考えていたのか」と相手の知らない一面も発見できる。コンパで家族について話している途中、一人の従業員が急に涙を流したこともあった。親に対する感謝の気持ちが欠けていたことに気づき、思わず感情が高ぶったのだという。
コンパを続けるうち、目の色が変わってくる従業員と、雰囲気になじめない従業員、2つのグループに分かれてきた。コンパの最中に「何がフィロソフィだ。あほらしくてやってられるか!」と暴言を吐いて辞めていった従業員もいたが、残った従業員はみるみる成長した。特に大畑がうれしかったのは、かつて札付きの不良だった従業員がこう口にしたときだった。「昔の仲間と酒を飲むと、パチンコで勝ったとか、どこの飲み屋にかわいい女性がいたとか、そんな話題ばかりで嫌になる」
大畑はうれしそうに笑う。「それを聞いて、ゾクゾクしました。誰でも心の底では真面目に仕事をして人の役に立ちたい、一生懸命に生きたいと考えているもの。その部分に刺激を与えたのが、うちの場合はコンパだったんです」
大畑に「経営者とは何か」と尋ねると、即座にこう返ってきた。
「経営者は親ですよ。私は従業員に対し、親子の絆を超えるくらいの接し方をしてきたつもりです。私は従業員を子供だと思っているし、従業員も私のことを父親のように思ってくれている。雇用する側と、雇用される側。そんな単純な関係では経営できない。『大家族主義で経営しなさい』と塾長も言っています。大家族主義で経営していると、経営者が燃えれば従業員もちゃんとついてきてくれる。自分を犠牲にして、従業員のために尽くせるかどうか。普通の親だったら、子供のことを何よりも先に考えますよね。それと同じです」
「従業員とそこまで深い関係をつくらなくてもいいのでは」といぶかる向きもあるかもしれない。だが、この浪花節経営で稲盛は京セラを1兆円企業に押し上げ、この大畑もまた会社を伸ばしてきたのは事実である。
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