熱烈な「追っかけ」

 アイドルファンさながらのフリークぶりを見せる大畑は、盛和塾生の間で「追っかけ」と呼ばれている。盛和塾では年に十数回、稲盛が直々に出席する塾長例会を開催。全国各地を順繰りに回り、毎回1000人前後の塾生が参加する。多くの塾生は、地元や近隣都市で開催する例会に参加するだけだが、大畑のような「追っかけ」の場合は、塾長例会の年間予定をスケジュール帳に書き込み、よほどの緊急事態が発生しない限り、すべての塾長例会に駆けつける。熱烈な「追っかけ経営者」は数百人いるという。

 それなのに大畑が稲盛と話すことは、最近はあまりない。

 「入塾した頃は塾長に何でも相談できましたが、だんだん怖くなってきましてね。会えば会うほど、怖さが増す。普通の人間関係は会うほど親しくなりますが、逆です。塾長は一見すると柔和なので、最初は近寄れるんですよ。うれしいな、京セラの創業者と話ができるよ、とそんな感じ。けれども次第に塾長のそばに行けなくなる。畏敬の念って言うんですか。体が硬直しますもん。そんな塾生は結構多い。地元に帰ると大きな会社の会長や社長が、塾長の前だと新入社員のように直立不動。僕も典型的にそうです」

 稲盛は、いかにも成功者然とした経営者ではない。食事も質素で「吉野家」の牛丼をこよなく愛し、その愛好ぶりを聞きつけた吉野家本社から特別にプレゼントされた「マイどんぶり」を宝物にしている。その素顔は庶民的だ。塾長例会では、塾生と冗談を言い合う光景もよく見られる。大畑は稲盛のどこに畏れを感じるのか。

 「口先だけじゃないってことですよ。象徴的なのがJAL(日本航空)の再建です。あそこまで多額の借金を抱えた官僚体質の会社を再建するなんて困難極まりないし、ましてや塾長は高齢です。創業するのとは勝手が違うだろうし、京セラやKDDIと業種もまるで違う。立派な経営者として名声を上げた塾長が火中の栗を拾って失敗したら、それこそ晩節を汚しかねない。メディアの風潮も懐疑的でしたが、僕もそう懸念していた一人でした。塾生の多くが『やめてもらったほうがいいのでは』と口々に言っていた」

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