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政財界の発展に貢献した数々の大物リーダーを取り上げた作家の城山三郎。細やかな描写とリアリティーの高い心理表現を駆使した作品に、今もファンが多い。その熱心な仕事ぶりは、最愛の妻と子供たちが支えた。城山の人となりに触れられる作品である『そうか、もう君はいないのか』を取り上げる。

 この連載では、城山三郎の作品を通して、新しい時代に求められるリーダー像を考察してきました。広田弘毅、渋沢栄一、石坂泰三、石田禮助など、日本の発展に貢献したリーダーたちの物語は、リアリティーの高さとテーマの深さによって読み手を一気に引き込む。城山が磨き続けた人間観察力と分析力がなせるわざでもあります。

 今回は、数々のリーダーを取り上げてきた城山の人となりに触れたいと思います。

家族が仕事を支える

佐々木常夫 ささき・つねお
1969年、東京大学経済学部卒業。東レ入社。繊維管理部長、経営企画室長、取締役などを経て、2003年に東レ経営研究所社長に就任。10年に佐々木常夫マネージメント・リサーチを設立し、現在に至る

 彼の人間性を知る上で欠かせない作品といえば、『そうか、もう君はいないのか』です。妻の容子との出会いから死別するまでを通して、全編に夫婦愛、家族愛が満ちた回想録になっています。

 城山は政財界の大物を執筆するに当たり、膨大な時間を費やしました。関係者を丹念に取材し、資料を読み解き、現地調査も徹底した。都心から離れた茅ヶ崎(神奈川県)に居住まいを構え、文壇とも距離を置き、執筆に集中できる環境を死ぬまで守り続けました。

 そんな仕事ぶりを貫けたのは、家庭という基盤をしっかり築いたことにあることが本編から伝わってきます。愛妻家でありながら、親子の絆も太い。何があっても揺るがない家族の存在というのは、仕事に邁進するための必須条件だと言えるでしょう。

 本編後半では、妻の余命がいくばくかという事実を知らされたとき、家族が1つになって至福の時間を過ごしたという感動的な出来事が綴られています。

 本書のあとがきには、城山の次女である井上紀子氏が「太陽のような母と、月光の如き父」として両親がいかに深い愛情で結ばれていたかを語っています。子供たちも両親の性格や価値観をしっかり見つめ続けているのです。

 こうしたエピソードから分かるように、城山三郎は人のあるべき理想の関係を、身近にいる家族の中に築いたのかもしれません。