ITなど新技術を生かし切れないのは社員教育が足りないからだ。そもそもIT自体がよく分からなかったり、ITについてある程度の知識はあっても、それを経営革新に生かせるほど力のある社員がいなかったり……。これを変えるには、直接的な技術教育だけではなく、働く環境から整備する必要がある。「自分たちの会社」という当事者意識こそ、実は技術を生かす近道だ。

 「新しい技術が会社と市場を変えることは分かった。でも、うちにはできない」──。こう嘆く経営者は少なくない。その最大の理由はやはり人材だ。

 AI、IoTなど次々に出てくる新技術はもちろん、ITの段階からよく分からない。ある程度の知識はあっても、それを経営革新に生かせるほど力のある社員がいない……。勢い、「そんなことよりまず今日の売り上げだ」となりがちなのである。

 しかし、世の中を見回せば古い業種の企業でも、現場従業員にまでITをはじめとした技術を浸透させ、経営を変えている会社がある。ポイントは、技術だけを教え込むのではなく、働く環境から整え、誰でも自然に使えるようにしていくことだ。

 「職人は高齢化しているし、若手は仕事に来ても数年で辞めている。ここから何とかしないと」

 ビルなどの塗装を手がける大阪市の竹延(たけのべ)の現社長、竹延幸雄氏は2003年に娘婿として入社して間もなくそう思うようになった。

ITを使って職人の育成と働く環境を改革した竹延社長(右)(写真:太田未来子)

 竹延は関西有数の塗装工事会社で、約150人の塗装職人が働いていたが、多くは50~60代以上のベテラン。若手がたまに入っても4割強は3年以内に仕事をやめていた。その原因は根深いところにあった。

 「職人が一人前になるには10年かかる」「仕事はベテランのやることを見て覚えろ」。教育の仕組みはないに等しかった。そんな状態だから若者が定着しない。人手が足りなければアルバイトで下働きを雇って何とかするという繰り返しだった。

 竹延社長はこの古い世界にITを使って革新を起こそうとしたが、実は職人のほとんどは社員ではなかった。個人事業主としていわゆる日給月給制(原則は日給で月1回支払う)が業界慣行で、会社側に教育の〝義務〟はない。職人も気に入らないことがあれば、さっさと辞めていた。

 教育と雇用の形態から変えよう。竹延社長が考えたのは、「職人を社員化する」こと、そして「より短い期間で体系的に教育して一人前にするためにITを使う」ことだった。一人親方ではなく、組織への帰属意識を高めて教育をしていこうというのである。

 現場で職人の負担を減らすさまざまな作業改善に取り組んだ後、実際にこの意識改革に着手したのは13年のことだった。義父を説き伏せ、職人を社員として採用するKMユナイテッドという別会社を立ち上げ、竹延の委託を受けて仕事をする形にしたのだ。

 長年の慣行で動いている本体の仕組みをいきなり変えれば混乱を招く恐れがあるからだ。KMは「可能性(K)を未来(M)につなげよう」という想いを込めたものだったという。

続きを読む 2/5 「1人前に10年」のウソ

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