孫氏の弟であり、連続起業家・投資家としても知られる孫泰蔵氏。身近で見てきた兄の素顔を取材した。孫正義氏の強さは一体何か。いくつか挙げたうちの1つは「やり切る力」だった。

写真右はMistletoeファウンダー・孫泰蔵氏(写真/菊池一郎、アフロ/つのだよしお)
写真右はMistletoeファウンダー・孫泰蔵氏(写真/菊池一郎、アフロ/つのだよしお)

 日経トップリーダーには「破綻の真相」というコラムがあるため、中堅中小企業の倒産取材は編集部全員で担当している。当然、部内では「なぜこの会社は破綻したのか」という話に毎月なるのだが、1つ興味深い共通点がある。

 それはほとんどの経営者が、破綻を回避する手段を分かっていただろうという点である。

 「この時点でこういう戦略を取ったが、やり切れなかった」といった反省の言葉を当事者への取材で聞くことは多い。逆にほとんど聞かないのは「何をすれば業績が回復するか、全く分からなかった」という言葉だ。

 破綻企業の経営者は、何をすればいいかは分かっていたが、何かしらの事情で着手しなかった。あるいは着手したものの、やり切れなかった――。そのパターンがほぼすべてである。

 つまり、破綻の原因は突き詰めれば「やるべきことをやり切らなかったこと」。

 こう言うと、拍子抜けする人もいるかもしれないが、逆も真なりで、名経営者は皆、やり切ること、そして社員にやり切らせることにかけては、並外れた力を持っているものだ。稲盛和夫氏の小集団単位の採算管理「アメーバ経営」はその象徴である。

 孫氏が果たして名経営者なのかどうかは判然としないが、「やり切る力」の強さにかけては、他を圧倒する。今回取材した15歳年下の孫泰蔵氏が教えてくれた、こんなエピソードを紹介しよう。

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