稲盛和夫氏が主宰した「盛和塾」で、経営者たちは何を学んでいたのか。それは「経営者とは何者なのか」という根源的な問いに対する答えである。名経営者とその門下生たちの対話をまとめた『経営者とは 稲盛和夫とその門下生たち』の中から、一部を紹介する。まずは、ブックオフコーポレーションを創業した坂本孝氏の物語。盛和塾の古株だった坂本氏は、稲盛氏と同じ2022年に旅立った。浅からぬ縁を感じずにはいられない。(文中敬称略。肩書や組織、事実関係などは本書初版発行の2013年時点のもの) 

 「経営者とは何か。この問い、なかなかいいじゃないですか。やや哲学的で、答え方が難しいけれど、やはりこれにダイレクトに答えられるかどうかが、盛和塾に入って稲盛フィロソフィをどれだけかみ砕いて自分のものにしているかという、まさにリトマス試験紙みたいなものじゃないかと思うんです。私も経営者として、本当にいろいろと経験を重ねましたからね。少しは参考になるお話ができるかもしれません」

 

 坂本孝。東京・銀座で「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」などの人気レストランを経営する、「俺の株式会社」の社長だ。もしかしたら、「ブックオフコーポレーションの創業者」と言ったほうがピンとくる人がまだ多いかもしれない。

ブックオフコーポレーションの会長を退任し、「俺のフレンチ」で外食に参入した坂本孝氏(写真:竹井俊晴)
ブックオフコーポレーションの会長を退任し、「俺のフレンチ」で外食に参入した坂本孝氏(写真:竹井俊晴)

 坂本が中古書籍を販売するブックオフを神奈川県相模原市で創業したのは、1990年。それまでの古本屋のイメージを払拭した明るくて広い店づくりは、瞬く間に消費者に受け入れられた。坂本が社長、会長を務めていた頃は国内外に800店まで拡大。2005年には東証1部に上場も果たした。

 だが、2年後の07年、「週刊文春」がブックオフ社内の不祥事を告発する記事を掲載。坂本は架空売り上げ計上の責任を取り、報道の翌月に電撃辞任した。

 「今さら言ってどうなるものでもありませんが、実際に水増しをやった幹部が会社を辞め、週刊誌にネタを提供した。額としては全社の売上高の何千分の一です。その話を膨らませて書き立てると、ああなるわけです。幹部に裏切られたとも思いましたよ」

 人はどこまで信用できるのか。ブックオフの会長職を辞した後、坂本は悶々(もんもん)と悩む日々を送った。性善説と性悪説が、ぐるぐると頭の中で揺れ動いていた。そんな中、救いを求めるように通ったのが、盛和塾だ。

 坂本の入塾は1995年と、塾生の中でも古株に入る。ブックオフの成功でメディアに大きく取り上げられるようになってからも、また株式上場してからも、ずっと盛和塾に足繁く顔を出し、稲盛の講話を聞いていた。

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