
コロナ禍を境に、企業の中で認識が変わったのが「営業」ではないだろうか。
顧客先に簡単に足を運べなくなったり、コンタクトが取りにくくなったりした。オンラインの活用も進んだ。だが、事はそれだけにとどまらない。
「営業はこれから大きく変わる」と言うのはMBAスクールの教科としては珍しい営業戦略・営業組織を教える北澤孝太郎・東京工業大学大学院特任教授だ。
「セールス(販売)」と「マーケティング」という専門領域が確立している欧米に比べて、日本の「営業」とは、もともと商いを行う組織の全員が顧客に対応することを意味し、「セールス」よりも広い概念だったという。
「ところが経済が成長してモノが売れた時代に、営業の役割は作った商品を売ってくることという分業が起きた。いいモノを作ったのだから売ってくる能力を身につけろとされて、営業は体力勝負の仕事になってしまった」(北澤特任教授)。
しかし「分業モデル」の前提となった経済成長は既に過去のものだ。顧客価値を提供するための営業はセールス担当者だけでなく、再び組織全体の課題になっている。
属人性からの脱却
中小企業の経営者であれば、営業担当としても社内でトップというケースも少なくないだろう。
「昭和の時代に確立した営業スタイルは、経済が長い停滞期に入った平成の間も『余韻』で続いてしまった。トップセールスから起業した私自身が、まさに昭和の営業スタイルと営業マインドを引きずっていた」と言うのは、営業・マーケティング業務のアウトソーシングを手がけるSurpass(サーパス、東京・品川)の石原亮子社長だ。
個人の力量に頼る「営業」は再現性に乏しく、組織力につながらない。成果を上げていた営業担当者が突然退社すれば打撃は大きい。「こうした課題はずっと指摘され続けてきた。大企業でもさまざまな改革が行われたが、多くはしばらくたつと元通り、を繰り返してきた。それが今、組織の規模にかかわらず、営業から属人性を排した企業とそうでない企業の差は広がっている」(石原社長)。
中小企業の営業は社長の考え方1つで決まる。もし、社長自身がまだ昭和の営業スタイルを引きずっていて「売り上げを伸ばすために、営業担当者の販売スキルをもっと上げなくては」と考えているなら、要注意かもしれない。
次からは、新しい取り組みを続ける3人の社長のインタビューを通してこれからの営業の形を考える。
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