「管理職になりたくない」という若手社員が増えている。出世をモチベーションに努力してきた「昭和世代」からすれば、理解し難く、困惑する。現場のリーダーである管理職がいなければ、組織は回らない。なぜ今どきの若者は昇進を嫌がるのか。その理由を解明しつつ、若手社員が積極的にリーダーを務めている企業のケースや、識者のコメントから 「管理職になりたくない症候群」への処方箋を示す。

(イラスト/PIXTA)
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<特集全体の目次>

・昭和世代は驚愕!? 若者の83%が「出世は勘弁」

・「それなら頑張るか!」ヤッホーの思わず出世したくなる仕組み

・昇進の“報酬”は社長並みの強い権限(11月9日公開)

・中間管理職が1人で何役もこなす時代は終わる(11月10日公開)


 Case1 
ヤッホーブルーイング(クラフトビールの製造・販売)
若手を“その気”にさせる独自の立候補制度

気が進まない人に無理に管理職をやらせても、成果は上がらない。能力が高い人材に“その気”になってもらうのが一番だ。独自の立候補制度を導入し、それを実現している企業がある。

「最近は(リーダーになりたいと)手を挙げる人が多過ぎて困っているくらい」。ヤッホーブルーイング(長野県御代田町)の井手直行社長はこう話す。

 同社では、2009年頃から「ディレクター立候補制度」を導入している。年に1回、一般的な部・課に当たるユニットの長、ユニットディレクター(以下、UD)を公募。プレゼンテーション大会を経て、来期のリーダーを選抜するという仕組みだ。

リーダーを決めるプレゼンテーションは真剣勝負
リーダーを決めるプレゼンテーションは真剣勝負
ディレクター立候補制度で、プレゼンテーションをする社員。全従業員が参加し、発表に耳を傾ける

 リーダー任命までには厳格なプロセスがある。候補者は、自分が担当したいユニットが抱える課題とその解決のための戦略案を発表。1人当たりのプレゼンテーション時間は15分、質疑応答が10分だ。

 発表後、プレゼンを見た従業員全員にアンケートを実施。候補者の評価を記入してもらう。「発表内容」と「UDに推薦するか」の2つについて5段階で評価。加えて、推薦する理由、しない理由などを記入する。

 自分が所属するユニットや業務で関わるユニットのリーダーが決まるだけに皆真剣で、コメント欄いっぱいに書いてくる人も多いという。誰を昇進させるかは「アンケートの評価を何より重視している」(井手社長)。

 この結果と今後の組織体制構想を踏まえ、各部門長などで議論を重ね、次期UDを最終決定する。

 入社2年目以上の正社員なら誰でも立候補できるが、選考を通るのは容易ではない。1回目の挑戦でUDになれる人は少なく、4回、5回とチャレンジする人もいるという。

「管理職になりたいとはあまり思っていなかったものの、チームで働くのが面白くなった。ついてはもっと業務範囲を広げ、新しい役割を担いたい。それにはUDになるのが現実的な選択肢の1つだった」。入社4年目、2回目の挑戦でUDになった、YES!通販団 月組(通販ユニット)の桂馬拓也氏はこう話す。

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