今日は、小さな企業の方々が大半なんですが、私も会社をつくったとき、初年度の売り上げは3600万円ほどでした。ひと月当たり、ちょうど資本金と同じ300万円の売り上げだったわけです。そして税引前利益が300万円、1カ月の売り上げ分の利益が出ました。利益率は1割、10%を切る程度で、従業員も28人だった。私もそういう零細な状態から始まっているもんですから、小さい会社の方々の大変さは分かっています。分かっていますが、やはりその中で一番大事なのは、何といっても働くことです。
地味な努力を積み上げ、誰にも負けない努力を
皆さんはこの盛和塾に入って、稲盛塾長の話を聞いて立派な会社にしたいと思っておられますが、その1番目は誰にも負けん努力をするということです。
先ほどの自己紹介で、農家や養豚をやっておられる方がいましたね。また、食品・スーパー、電設会社、あるいは保険代理業など、小さなものをやっておられる方もいました。その方々は、ともしますと、自分の仕事を「塾長はあんなごつい、世界的な事業をやっておられるのに、田舎でこんな地味な仕事をコツコツやっておっても、うだつが上がるわけがないではないかよ」と思っておられるかもしれません。そのために、一生懸命に頑張れと言われても、一生懸命になれない。俺だって三流とはいえ、大学を出ているんだ、このくらいのこと簡単なことやと、どうしてもなめてかかっている。それじゃあ、いかんのです。
どんな偉大なことも、地味な仕事の一歩一歩の積み上げでしかありません。賽(さい)の河原の石を積むみたいな、本当にささいな仕事の積み上げでしか偉大なことはできないんです。一生懸命、一生懸命、気の遠くなるような努力を続けることしかないんです。世界最高のエベレストに登るのでも、麓(ふもと)から一歩一歩、足で登らなきゃ、登れやせんのですから。こんな一歩ではとか、たった一歩じゃあとか、決してバカにしてはなりません。一歩一歩地味な努力こそ大事なんだということを認識して、そして誰にも負けない努力をするんです。
「努力をしていますか」と聞けば、みんな「努力をしています」と答えるでしょう。しかし、誰にも負けない努力というのは、誰もしていないのです。夜中の12時まで働く奴がいたら、それよりはやらなきゃあ、誰にも負けない努力とは言えない。12時半まで頑張ってみたら、1時までやる奴がおった。じゃあ2時まで自分はやらなきゃならんわけです。やっているうちに寝る時間がなくなってしまったというくらい、それが誰にも負けない努力なのです。自己満足の努力では、努力のうちに入りません。誰にも負けないすさまじい努力をすることが1番目です。

行動規範を道徳に置いた二宮尊徳
二宮尊徳は、皆さんご存じですね。若い人はご存じないかもしれませんが、私どもが小学校の頃、薪(たきぎ)を背負いながら本を読んでいる銅像がよくあったもんです。つまり、働きながら学ぶという。
二宮尊徳のことを、私はその程度しか知らなかったのですが、明治時代に内村鑑三が書いた『代表的日本人』という本の中に、彼のことが出ているんです。この本は、日本人の素晴らしさを世界に紹介するため、内村鑑三が英文で記したものですが、その中で彼は、代表的日本人として西郷隆盛、二宮尊徳、上杉鷹山などを挙げている。日本語訳が岩波文庫から出ていて、読んでみますと、二宮尊徳さんというのは偉いのですな。
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