人が動かなくなったことで、最も影響を受けているのがサービス業だ。長期化する新型コロナ禍のもとで、経営者は何を考えているか。サービス業の生産性向上に詳しい内藤耕氏が現場をリポートする。

「コロナ禍により、以前から抱えていた課題が噴出した」。これは、石川県加賀市・山中温泉の旅館「お花見久兵衛」の吉本龍平社長の言葉です。
私は長年、中堅・中小のサービス業を中心に生産性向上を支援しています。全国の企業に足を運ぶと、長期化するコロナ禍で「困った、何とかしてくれ」「助成金はないのか」と愚痴をこぼしてばかりの経営者がいる一方で、この難局を乗り切るべく、生産性向上に一気に舵を切り、アフターコロナでの業績の飛躍に道筋をつけた経営者もいます。
非接触を徹底した「お花見久兵衛」
お花見久兵衛では、新型コロナウイルス感染拡大により2020年から21年にかけて合計で4カ月間も休館を余儀なくされました。今期の売上高も最大でコロナ前の6割減まで落ち込む見込みです。
何があっても、旅館を存続させなければなりません。感染症対策と同時に、顧客満足度や生産性の向上に取り組み、サービスの提供方法を徹底的に見直しました。
例えば、客室への案内をやめました。コロナ前はフロントでチェックインを済ませたら、客室係が部屋まで案内し、室内や館内などの説明をしていました。これを改め、宿泊客に伝えたい事項を用紙にまとめ、目を通してもらうかたちに変更しています。
できるだけ非接触での滞在となるように、チェックイン後、特別な要望がない限り、客室に入らないという宿泊プランも用意しています。食事は部屋の入口まで係が運びますが、セッティングは宿泊客にお任せです。料理を下げるのも同様で、かつ布団を敷くのもお客様自身で敷いてもらいます。
食事の提供も工夫しています。宿泊客が感染を気にせず食事ができるように部屋食を充実。特に、地元の海産物をぜいたくに使った「手巻き寿司コース」が人気です。部屋食は、館内のレストランより高めの価格設定ですが、利用客は多いそうです。
こうしたサービスの提供方法は、旅行代理店経由で旅館を訪れる比較的年配で、世話を焼いてほしいこれまで主流だったタイプの宿泊客にとってはなじまないかもしれませんが、直接インターネット経由で予約してくる若い世代には、かえって好評だといいます。
「過度なサービスがなく、何か問題があったときだけ丁寧に対応するほうが好まれる。新たなニーズが見つかった」と吉本社長は話します。実際、この取り組みを始めてから、宿泊予約サイトなどで良い口コミが増えたそうです。
このほか、お花見久兵衛では男湯、女湯、家族風呂と3つある露天風呂を無料で貸し切れるように変更しています。コロナ前は、家族風呂の利用には宿泊料とは別に使用料が必要だった上、男湯と女湯については時間帯によってお客が集中し、ゆったりくつろげないと言われることがありました。今は予約制を導入したことで混雑の分散にもつながり、評判も上々だそうです。

働き方改革を推進する新田塚コミュニティ
新田塚(にったづか)コミュニティ(福井市)は、福井県内にスイミングスクールとフィットネスクラブを計9施設運営しています。20年4月から5月にかけて1カ月半ほど、やむなく施設を休業しました。
その後は通常営業を続けているものの、昨年の売上高は、スイミングクラブで2割減、フィットネスクラブでは半減しています。飲食業や観光業のような積極的な公的支援がないことに加え、競合の進出も重なり、難しい経営状況にあります。
そこで小森富夫会長は、インストラクターの教育に力を注ぎ、サービスレベルを上げることで会員の流出を抑えています。さらに、シフト編成と勤怠管理をIT化し、誰でもいつでもシフトを確認できるように変更しました。シフトの「見える化」により、利用客数に合わせて適正な人数のスタッフを配置するようにしたのです。

また、会議を減らしたほか、あらゆる業務データをオンラインで共有できるようにするなど、日々の働き方も見直しました。「こうして働き方改革を愚直に一歩ずつ続けた」(小森会長)ことで業務の効率化が図れ、スタッフの時短が着実に進みました。
これにより、今年に入って客数が戻ってきたスイミングクラブ事業については、コロナ前の利益を越えるまでになっています。
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