アパレル業界は市場が激変している。戦後日本を支えた繊維産業は、他業界に先駆けて海外への生産移転が進んだ。その後も国内中小工場は必死に戦ってきたが、いよいよ大きな転換点を迎えている。例えば、ワークマンのように、アパレル業界に活気をもたらす企業は次々に現れている。それは中小企業でも同じだ。
ここでは激変するアパレル業界で戦う中小企業の事例を通し、他業界の企業にこれから待ち受ける針路を探った。そこから見えるメインテーマは、「個性の出し方」である。
<目次>
(1)【作り方】肌着の下請け会社が「着る岩盤浴」へ転じた理由
(2)【売り方】柔道着の生地を使った目新しい商品が話題呼ぶ
(3)【あり方】企業の「あり方」が問われる時代 パーパス経営に挑む
How it should be 【あり方】
企業の存在意義を問い直す「パーパス経営」に注目が集まる。それは当たり前のことだが、私たちはないがしろにしてしまった。縮小市場で勝つには、自社の「あり方」を見つめ直したい。
インドの綿畑では、40万人近くの子供たちが働き、過酷な労働や農薬による頭痛や吐き気、皮膚疾患などに苦しんでいるといわれている。自分が今着ている服も、そうした子供たちの犠牲の上で成り立っているかもしれない──。
「サステナブル(持続可能)」や「エシカル(倫理的)」という言葉がよく話題に上るようになった今、「安い」という視点以外の物差しで商品を買う人が増えている。
「この商品は誰が、どこで、どんなふうに作り、どんな人を通して売られているのか。企業はそんな目線でお客様からふるいにかけられている。そして、その目はどんどん細かくなっている。コロナ禍でそれをより強く感じる」
こう話すのは、日本では早くからオーガニックコットン(3年以上農薬や化学肥料を使わないで栽培された農地で育てられた綿花)の普及促進に力を入れ、それらを使用した製品の製造、販売、再生などを手がけるアバンティ(東京・新宿)の奥森秀子社長だ。

同社は今年、創業37年目を迎え、「プリスティン(PRISTINE)」というブランドを立ち上げてから25年たつ。ブランド名は直訳すると「原始的」だが、「純粋でけがれていない状態を維持する」という意味もある。
「サステナブルのような考え方は、創業当時は『何それ?』というものだった」と語る奥森社長。同社の考える社会や理念が、多くの消費者に共感され、支持される時代になってきたと言える。
アバンティの業績はコロナ禍でも好調だ。21年7月期の売上高は11億9200万円と前期比約97%と減収だったが、過去最高の利益を計上した。
ECの売り上げが増え、定番商品のパジャマや肌着などが、コロナ禍の「(外着ではなく)家の中でも快適な衣服を」というニーズにマッチしたからだ。
ただそれ以上に 「暮らしに寄り添うブランドだからこそ、『顧客とのつながり』は大事にしている」(奥森社長)ことが好調を維持している理由と考えられる。
例えば6年ほど前から、ものづくりの原点を体験してもらうために顧客と一緒に味噌を造る信州バスツアーを開催(コロナ禍で現在は中止)。バスは、天ぷらの廃油で走る環境配慮タイプをチャーター。価値観が同じ参加者同士はすぐに仲良くなるという。
自社で手がける国内の綿畑で取れた有機野菜も顧客に販売する。無農薬栽培だからこそ、綿と同じ畑で育てられるという。
コロナで緊急事態宣言が出たときは、店舗スタッフが手書きのメッセージを同封したカタログを顧客に送付。休業から再開する際は感謝の会を開き、古くなった商品を染め直してリメークするサービスを特別価格で提供した。
「うちにはマーケティング担当はいない。毎日の暮らしやお客様と接する中で価値観や気配、気分を感じ取る。それが私たちのものづくりにはとても大事なことだと思っている」(奥森社長)。

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