『嫌われる勇気』の著者で、哲学者の岸見一郎氏がリーダーのあり方を説く連載の第44回。今回のキーワードは「信頼」。岸見氏は「はたして、この人は信頼に値する人かどうかを調べてから信じるというのであれば、それは信頼しているとはいえない」と説く。

 有能なリーダーは部下を信頼できないことがあります。部下に任せないで自分がした方がよい結果を出せると考えるからです。

 哲学者の和辻哲郎は次のようにいっています。

「信頼の現象は単に他を信ずるというだけではない。自他の関係における不定の未来に対してあらかじめ決定的態度を取ることである」(『倫理学』)

 部下に仕事を委ねる時、これから起こることは「不定」です。部下が自分の信頼に値し、それに応えられる人であることが確実にわかっているのであれば、信頼するかどうかを考える必要はありませんし、はたして、この人は信頼に値する人かどうかを調べてから信じるというのであれば、それは信頼しているとはいえません。

「人が信頼に値する能力を持つことを前提として、いきなり彼を信ずる。それが他への信頼である」(前掲書)と和辻はいっています。

 仕事では失敗は許されないのだから、和辻がいうような信頼をすることはできないと考える人はいるでしょう。しかし、今リーダーである人で、仕事でこれまで一度も失敗したことがなく、上司の信頼を裏切ったことが一度もないという人がいるでしょうか。リーダーにとって、「信頼は冒険であり賭け」(前掲書)なのです。

 もしもリーダーがこのような冒険をしたくないと思い、部下を信頼しなければ、部下は上司から少しも信頼されていないと思い、仕事に積極的に取り組もうとはしないでしょう。

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