今から35年前、私は京セラという会社を京都の一角につくってもらいました。私が開発をしたファインセラミックスという新しい技術を使って会社を興したわけです。ですから、私の周囲にいるのも、やはり化学の専門家の連中が大半でした。つまり、仕事をしていくのに、相当レベルの高い人たちを使わなきゃならなかった。しかも、私は年が若い。

 私は27歳で、前の会社を辞めて会社をつくってもらったわけですが、そのとき、前の会社で私の上司だった課長さんも一緒に来られました。現在75歳くらいですから、私よりも一回り以上、上の人です。その人が、今度は私の部下になった。そして前の会社で取締役であった方が、新しい会社の専務となられた。その方は私の父親と同じ年でした。京都大学の電気を卒業された方で、先の課長は早稲田の経済を出た人。年の上の人もいますし、そういう錚々(そうそう)たる人たちを従えていかなきゃならん。従えていくというのは言葉がきついかもしれませんが、つまり、自分がリーダーシップを持って引っ張っていかなきゃならんわけです。

 企業というのはハッキリしていて、特に中小企業は力がありません。その力のない企業が力を出そうと思えば、何としてもみんなの方向を、みんなの考え方を一緒の方にそろえる、つまりベクトルをそろえなければならない。みんなが一緒になって、同じ方向を向いてくれれば、少しでも仕事ができるわけですから。ベクトルをそろえていくには、説得をしなきゃいかん。説得をするとは、相手に「なるほどな」と思わせることです。仕事の面でも、人間という面でも、人物の器という面でも「なるほどな」と、向こうが一歩シャッポを脱ぐ。そういう状態でなければ、誰もついてこないし、言うことを聞いてくれないわけです。

 それはもう、大変私は悩みました。自己紹介を聞いていますと、皆さんそうだと思います。

従業員に惚れさせる

(写真/菅野勝男)
(写真/菅野勝男)

 私の場合には、今言ったように、私の父親と同じような人と一緒に仕事をし、また一回りも年上の人を部下として使わなきゃならんという。そしてみんなの力を集めようと、仕事を深く考え、みんなに何とかついてきてもらうために、朝礼でみんなに集まってもらったときでも、「実は昨日、こういうことがあったけど、これじゃあ困るんです。こうしてもらわないけません」と言う。そして、私の父親ほど年が違う専務に「立ってください」と言って説教を始める。説教されると、さすがにその専務もしんどいわけです。

 ですから、朝礼が済んでから専務を怒ったんです。「みんなの手前、あなたがシャンとしてくれなきゃ、困りますよ」「『稲盛君の言う通りや』と言ってかしこまって聞いてくださいな。専務自身が、分かったか分からんような顔をしておったのでは、ただでさえ私を尊敬してない人たちがいる中で、誰がまともに私の話を聞いてくれますか。せめて専務がかしこまって聞いておれば、みんなも、『ああ、なんかしらんが、ええことを言ってんだろう』と聞く気になってくれます。だから、そういう態度をとってもらわなきゃあ、困るじゃありませんか」

 しかし、私は工学部ですから、みんなの前で話をしたりするとき、文学的な表現はあまり知らないし、できないんですな。まあ、考えてみますと、私の年代は本当に哀れな年代ですわ。戦前、尋常小学校に入って、それが戦時中、国民学校に変わった。中学も旧制中学に入学して、途中で新制中学になったし、高校も新制高校。大学はといえば旧制と新制の境目で、私は新制大学だった。

 ましてをや戦時中は、私は小学生、中学生だったんですが、空襲で逃げ回らなきゃならんわ、やれ学徒動員だわ、やれ防空壕掘りだと、勉強なんか何もできなかった。そしてそのまま高校に行き、大学へ行ったような気がします。

 両親は小学校しか出ていませんでしたから、小学校の頃、両親から「勉強をせい」と言われたことは1回もありませんでした。真っ黒になって、鹿児島の甲突川というところで魚取りばっかりしておりました。それでも、家ではひとつも怒られなかった。学校では怒られましたが。

 夏が来ると思い出しますが、夏休みには宿題がいっぱい出ます。ですが、待ちに待って、ようやく来た夏休みですから、夏休みが始まったその日から、もう遊びまくる。そして夏休みが終わる頃、ふっと気がつくと宿題は全部空欄のまま。悪いことに日記なんてのがありまして、晴れだったか雨だったか、分からない。でも、何か書かなければならんというので苦労しました。それでも、家では「勉強せい」とは言われなかった。

 また、『のらくろ』だとか、そういったマンガは見ましたが、小説とか文学には縁がない。もちろん小学校しか出ていない両親の家には書籍などはあまりないわけですから、見る機会がない。

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2/22ウェビナー開催、ウクライナ侵攻から1年、日本経済「窮乏化」を阻止せよ

 2022年2月24日――。ロシアがウクライナに侵攻したこの日、私たちは「歴史の歯車」が逆回転する光景を目にしました。それから約1年、国際政治と世界経済の秩序が音を立てて崩壊しつつあります。  日経ビジネスLIVEは2月22日(水)19時から、「ウクライナ侵攻から1年 エネルギー危機は23年が本番、日本経済『窮乏化』を阻止せよ」と題してウェビナーをライブ配信する予定です。登壇するのは、みずほ証券エクイティ調査部の小林俊介チーフエコノミストです。世界秩序の転換が日本経済、そして企業経営にどんな影響を及ぼすのか。経済分析のプロが展望を語ります。視聴者の皆様からの質問もお受けし、議論を深めていきます。ぜひ、ご参加ください。 

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